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神崎佳乃。十九歳。無職。恋人なし。
子供の頃の将来の夢、アイドルになること。現在の目標、アイドルになること。
高校卒業と同時に、アイドルを目指して単身で上京。現在アパートで独り暮らし。上京から一年間で受けたアイドルオーディションの数、十五。合格した数、ゼロ。
「何やってんだろ、アタシ……」
案内された小屋の中は思ったより広く、中央にはプロレスのリングが設置されている。その周りにはジャージを着て準備運動をする女性たち。少し離れたところでは、関係者やスタッフと思わしき人たちが打ち合わせをしている。
あの後、佳乃は男に受付まで連れて行かれ受験票を提出。ゼッケンと、注意事項の書かれた紙を手渡された。今更『間違えて応募してしまいました』などとは言えず、流されるままに別室に移動して着替えを行った。
改めて受験票を見てみたが、そこにはしっかりと「プロレス」「入団テスト」といった文字が並んでおり、自分が完全に見落としていたことがわかる。
親の反対を押し切り「アイドルになる」と言って上京。希望を胸に沢山のオーディションを受けてきたが、結果はことごとく惨敗。不合格通知の山を築いた。
次第にオーディションを受けることが目的になったかのように、機械的に応募と受験を繰り返しているような日々。それにしても、オーディションの送り先や、その内容すら把握できていないなどは論外。自分のモチベーションがそこまで低下していたのかと落ち込んでしまう。
どうしてこのオーディションに応募したんだろう? 疑問に思い、鞄に突っ込んでいたオーディション情報誌を取り出しページを開く。付箋の張られたページに赤ペンで大きな〇がつけられた箇所。
そこには確かに「プロレスリング・クレスタ新人募集」と書かれているものの、キャッチコピーは『新時代のアイドル来たれ!』『歌って踊れるスターを募集』といった謳い文句が踊っている。
「詐欺じゃんかよ……」
吐き出した言葉には、最早怒りを通り越して呆れと諦観の念しかなかった。
最初の小屋に戻ると、既に佳乃以外の受験者が整列しており、佳乃も慌てて列に加わる。
受験者は佳乃を含め十五名。年齢は下が十四歳から上は二十六歳。それぞれジャージやTシャツなどシンプルな運動着に身を包んでいる。
そんな中で佳乃は、普段ダンスレッスンで着用しているお洒落なレッスン着姿。レオタード風の衣装にヒラヒラのスカートがついたものを纏っており、周りから完全に浮いている。
さらに茶髪のロン毛にギャル風のメイク。どこからどう見ても場違い感が半端ない。
「(うわぁ、周りから『何だ、こいつ?』って感じに見られてる。気まずいなぁ。やっぱり正直に言って帰ろうかな……)」
居たたまれない佳乃の思いとは裏腹に、オーディションという名の入門テストが始まった。
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