第8話 お告げ
龍造とアンナがテレパス通信を始めて一年ほど経っていた。
施設の者に悟られぬよう顔は無表情のままだが、心はほぼ元に戻っていた。
龍造はアンナに対し、心をブロックする事はしなかった。
アンナの心も読もうとはしなかった。
たとえアンナがブロックしても、龍造がその気になれば深層部までスキャンする事は可能だがしなかった。
彼等は覗き屋では無い。
普通の人と接する時も、心を読む事はしない。
自己防衛や、やむを得ない時は別だが。
正しい資質というものがある。
アンナも正しい資質の持ち主の様だ。
心をブロックしていない龍造の心をアンナは覗く事はしなかったが、彼から感じる包み込んでくれるような優しさと暖かさは心地良いものだった。
龍造はソフィアのこと、龍人の事等家族の事を包み隠さず見せた。
しかしアンナは未だ過去の全てを開こうとしない。
拒むというより自身を恥じているようだ。
隠したいと言った方が良いのかもしれない。
(ソフィアさん、綺麗で優しい方だったのね。龍人も可愛いわ)
(ありがとう。君も優しくて綺麗だよ)
(・‥。)
(?)相変わらず女心が判らない龍造だ。
(私は優しくなんか無いわ。だって、自分の事しか考えられなかったもの)
(それは君の境遇がそうさせただけだ。前にも話したけど、この力の源は優しい心なんだ。憎しみから発動した力には限界がある。だが、優しさから発動した力には限界が無い。だから際限なく使うと、自身を消滅させてしまう事だってあるんだ。君の能力の高さ、感じる力が如実に物語っている。自分自身は責めるが、他人を責めたり憎んだりしていない君はやはり優しい心を持っている、誰よりも)
(ありがとう)
(お世辞じゃない、事実だ)
モニターでアンナを監視しているものが言う。
「おい、お人形さんが涙を流しているぜ。何かの前触れか?」
「どれどれ、おお?どこが」
「あれ?さっきはそう見えたけどな」
「感情の無いお人形さんが泣くわけ無いだろ」
龍造と訓練したアンナが監視員の視覚を操作したのだ。
気づかれないよう。
父の龍元に呼ばれ、本殿に行く龍造。
「お告げが出された。今回はお前がお役目を果たせ」
お告げを言葉や文章にすることは無い。
御神体の意思をテレパスで伝えるだけだ。
「承ります。!。このお役目は」
「任せたぞ」
「判りました」
「うむ、今回は源治にも手伝って貰う。周りのものは任せておけ。お前は施設内のものだけで良い」
「ありがとうございます」
「アンナを無事救い出せ」
「やっと約束が果たせます。それもお役目として」
「わしが初めてお役目を果たしてからこれまで、出されたお告げは能力者に関するものがほとんどであった。我らの努めとはそういうことなのかもしれん」
「一族の成り立ちからも、外れていませんね」
「うむ」
守家の一族は、元々卑弥呼のような巫女の護衛をしていた。
様々な厄災は神々の怒りとして、それを鎮めるために人身御供を捧げていた。
生け贄となる者は能力者、それも能力が高ければ高いほど神々様が喜ぶと考えられ、その時の権力者である巫女の娘の中から能力の高い者が差し出された。
ある時、差し出された人身御供が守家の若者と恋仲だった。
生け贄となった巫女たちは、深夜に山犬やオオカミに食われるだけなのを知っていた守家の若者が、人身御供となった巫女をオオカミから守り、殺したオオカミの肉片をばらまき娘を隠し、共に暮らし子孫を残した。
その繰り返しにより高い能力者が生まれるようになったのだが、それはまた別の物語。
龍造はその事をアンナに早く伝えたかったが、お役目の事を話す事はまだ出来無かった。
お役目とは守家の一族の秘密であり、決して知られてはならない事だからである。
それとある事を警戒してという意味もある。
アンナの能力の高さからしてまず無いと思われるが、アンナに話して能力者にアンナをスキャンされる事を警戒しての事だ。
絶対に無いとは言い切れない限り、すべきでは無い事を龍造は判っている。
「アンナには現地で会えるさ。会えば判ってくれる」
お互いを信頼し、気の置けない仲になっていた。
二人がテレパス通信で繋がる日々は、二人の心も強く結びつけていた。
お互いの心がお互いを求め合うほどに。
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