第5話 寄付金
翌日の午前中は時間が取れるはずだったが、ソフィアの働く店の客が増えたようで取れなくなった。
近くの施設で何かあるらしかった。
ホテルは軍関係者以外立ち入りが禁止され、ソフィアの働く店に客が集まったためだった。
それは数日続くようだ。
仕方なく龍造は教会で過ごすことになった。
そこですることは多かった。
子供達で協力しながらなんとかやってはいるが、出来ないことのもあった為だ。
後5年もすればこの子達も大きくなり、良い働き手になるだろう。
だがそれまではなんとか力を合わせなければならない。
神父は70歳をとうに超え、栄養不足もあり体力が弱っていたからだ。
龍造は育てるのにあまり手のかからない鶏を飼うことを提案した。
鶏小屋も作成した。
幸い近所の農家で雛を貰うことが出来た。
生き物を育てることは子供達の良い経験にもなるだろう。
成長すれば卵も得ることが出来る。
もちろん食用にもなる。
年長の子供達に鶏の育て方をレクチャーする。
楽しそうに飼育している。
ソフィアの職場に客が増えたことにより、もらえる残り物の食も増えた。
子供達の飢えを凌ぐのには十分な量だった。
飢えることが無ければソフィアも力を使った盗みをしなくても済む。
子供達もぐずること無く、昼間の労働の疲れもありぐっすりと眠っている。
その後の数時間を龍造はソフィアの能力訓練に当てた。
幼い頃から能力訓練を受けてきた龍造は指導にも長けていた。
ソフィアの能力は日ごとに伸びていった。
そんな日々が続いた。
気がつけばお互いを意識し、離れがたい感情を持つようになっていった。
ある日、神父様に二人は呼ばれた。
「リュウゾウさん、あんた特別な力を持っているね。そしてソフィアも持っている」
「ご存じだったのですか」
「これでもソフィアの父親だからの。ずいぶんと前から知っておった」
「私がしていた事も?」
とソフィアは申し訳なさそうに尋ねる。
「ああ。じゃが、わしもやめさせることが出来なんだ。あの子達を飢えさせていることが情けなくての、悪いこととは知りながら言えなんだ。つらい思いをさせたの、悪かった」
「ごめんなさい、パパ。ごめんなさい」
「いいや、悪いのはわしじゃ。謝れなければならぬのもな。すまなかったな」
神父の胸に飛び込み泣きじゃくるソフィア。
そんなソフィアの背を優しく撫でる神父。
龍造を真っ直ぐ見つめながら
「リュウゾウさん。あんた、この子を連れ出してもらえんか?」
「何を言うの、パパ。私はここにずっと居る。あの子達の面倒を見なければならないもの」
「あの子達もすぐに成長する。お前がいなくても大丈夫じゃろう。お前はな、自分の幸せも考えなければ。ここにおってもお前は幸せにはなれん。このごろお前達のような不思議な力を持つ者を強制的に施設に入れておると聞く。ここに居てはいずれお前も捕まるだろう。他所へ行った方が良い。お前を幸せに出来るのは多分リュウゾウさんだけじゃろうて。同じ力を持つな。リュウゾウさん、この子もあんたのことを憎からず思うておる。その証拠にあんたがきてからずいぶん女の子らしくなった。あんなにわしが言っても変わらなかったのにな。あんたもソフィアを好いておるじゃろ」
「はい」
「ははは、気持ちの良い男だの。よろしく頼む。ソフィアや、幸せにおなり」
「でも、今のままじゃ出て行けない」
「ソフィア、君が好きだ。僕に付いてきて欲しい。君と離れたくない」
「嬉しいわ、私もそうしたい。でも、行けないわ」
「時間をくれって言ってたよね。明日は大丈夫かい」
「多分、大丈夫だと思う」
なかなか寝付けない夜を過ごす二人だった。
思い出すと恥ずかしくもあり、嬉しくもあり、また、寂しくもあった。
夜が明けると忙しく、騒がしいいつもの朝がきた。
子供が多いと、どこでもそんなものだろう。
なんとか全員を着替えさせ、テーブルに座らせる。
お祈りをし、パンとミルクを頂く。
ミルクは無いことの方が多いが、近所の農家の牛が出産間近でミルクを頂くことが出来た。
子供達は嬉しそうに飲んでいる。
『ごちそうさまでした』
今日は皆元気が良い。
片付けをして、鶏の世話と畑の手入れをするものに分かれ作業をする。
時間が出来、龍造はソフィアを連れて街に出る。
街の朝は活気に溢れている。
「いいかい、ソフィア。これからすることを見て、いや、感じてくれ。・‥本当はこんなこと、したらいけないのだけれど」
そう言うと龍造は目をつむる。
しばらくすると、
「君、教会の子だね」
一目で裕福とわかる紳士がソフィアに声をかける。
「はい、そうです」
「教会に寄付をさせてくれ」
そう言って財布からお金を出し、渡そうとする。
「申し訳ありません。ここでお金を受け取ることは出来ません。どうか、教会の神父様に寄付を。そして礼拝堂でお祈りをして下さい。その方がご利益は大きいようですよ」
龍造が答える。
「そうか。君、ありがとう」
「どういたしまして」
訳がわからないソフィア。
「何?どういう事?」
「街の人に、教会に寄付をすると良いことがあると思い込ませた」
「え、どうやって?」
「これも力の使い方の一つさ。これで皆、教会に寄付をしたがる。自分からね。その後礼拝堂でお祈りをすると幸せな気持ちになる。彼等も気持ちにゆとりを持つことが出来、人生が豊かになってくれるだろう」
「そんな事に力を使って良いの?」
「君を連れ出すためなら、どんなことでもするさ」
「まあ、いけない人ね」
そう言いながら抱き合い、キスをする二人だった。
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