第4話 教会にて

 「ごちそうさま」

「ごめんよ、こんな物しか出せなくって。おなか膨れていないだろ」

確かにおなかは満たされていない。

しかしそれを補い、あまりある物を頂いた満足感はあった。

「十分だよ。君の方が足りていないのじゃないかい」

「私は昼間、給仕の仕事をしていてまかないを食べてるからね、少しで良いんだ。たまに古くなった食材を譲ってくれたりするから良い仕事場だよ」

「そうなんだ」

「ホテルの場所は判るかい?」

「大丈夫、判るよ」

「じゃあ、もう会うことも無いだろうけど、ここの子供達の笑顔は忘れないでいてやって」

もう会うことも無いと言う言葉が龍造の胸を締め付ける。

「明日も会えないかな」

龍造の顔を見つめるソフィア。

「良いけど、朝早くか今日くらいの遅い時間じゃ無いと仕事があるから」

「それでいい。仕事場に行こうか?」

「恥ずかしいからそれはだめ」

「仕事をしていて恥ずかしい事なんて、無いだろ」

「兎に角、恥ずかしいからここで待っていて」

少し顔を赤らめるソフィア。

どうも守家の男は女心に疎いようだ。

「ここに来ても良いの?」

「そう言っているでしょ」

ソフィアの言葉はいつの間にか初めの頃の男のような物言いから女の子らしい言葉使いになっていた。

「判った、待ってる」


翌日、ホテルをチエックアウトしてあの教会に行く。

途中、パンを購入し手土産代わりに持って行く。

教会に着くと、子供達が畑の手入れや礼拝堂の掃除をしていた。

募金を募りに街に立つ者もいるようだ。

荷物を昨日夕食をごちそうになった時に座った椅子に置き、畑仕事を手伝う。

龍造の実家も畑がある。

ここより何倍も広い畑だ。

それを手伝っていたから要領は判っている。

まだ耕していないところに手を付け、耕し種をまく。

芽が出たジャガイモの小さいものは植え、たい肥で覆う。

大きいものは切り、切り口を乾かしておく。

明日にでも植えるつもりだ。

気がつくともう日が暮れかかっていた。

子供達に手を引かれ、ソフィアを迎えに行く。

「ソフィアが帰ってきた。何か抱えている」

「食べ物だといいな。俺、ジャガイモ好きなんだ」

「私はビスケットが良いな」

「やっぱりお肉がいい」

「だめだよ、お肉はもらえないよ」

「ソーセージはあるかな」

「あると良いな」

やはり皆おなかを空かせているようだ。

「ただいま、今日は良い物があるわよ」

「なあに」

ビスケットが好きだと言った子が尋ねる。良い物と言う言葉に期待しているようだ。

「お肉よ」

『やったー』

口を揃えて叫ぶ。

「やあ、ソフィア。お帰り」

「少し遅くなってごめんね。このお肉を骨からこそげ落としていたら遅くなっちゃった」

そこそこの量がある。想像しただけで大変な作業だったろう。

「お疲れ様、・‥手、大丈夫?」

ソフィアの手は所々切り傷がある。

傷が深いのか、まだ血がにじんでいる傷もある。

龍造はソフィアの手を取り、能力で傷口を塞ぐ。

皮膚の細胞が急速に繋がり、傷口が判らなくなる。

「そんな事も出来るのね、すごい。私もこの子達の為に出来たら良いのに」

「練習すれば出来るようになるよ、その優しい心があれば、きっと」

龍造がまだ手を触っていることにはっとして手を引っ込める。

少し顔を赤らめるソフィア。

「ああ。ソフィア姉さん、顔赤いよ。どうしたの」

「な、何でも無いわよ。早く帰りましょ。今日は肉入りのスープよ」

「やったあ!お肉だお肉だ」

教会に近づくとソフィアが気づく。

「畑、広くなっている」

「うん。待っている間、耕しておいた。にんじんの種と芽が出たジャガイモを植えておいたよ」

「ありがとう。でも、収穫できるのはまだ先よね」

「寄付金があればそれまでなんとか食べて行けるだろ」

「そんなに集まらないわ」

「明日、仕事休めるかい」

「休めない。でも、午前中だけなら」

「それでいいから、ちょっと付き合って」

「?、何故?何かあるの」

「明日のお楽しみ」

怪訝な顔をするソフィア。

そんなソフィアを見て微笑む龍造。

「それと、ホテルチエックアウトしたから、今日泊めてくれるかい」

「良いけどベッドなんて、無いわよ」

「床で寝るなんて、慣れてるよ」

断られるのを覚悟していたが、あっさり了解してくれた事が嬉しかった。

(少しは信用してくれているのかな?)

そう思えたからだ。

その日の夕食は子供達を満足させることが出来たようだ。

ソフィアの持ってきた肉と、龍造の持ってきたパンが食事にボリュームを出した様だ。

神父も今日は遠慮すること無く食事が摂れたようだった。

食事に満足できたからか、子供達の寝付きが良い。

「今日はぐずる子もいなさそうね」

「君は良い母親になれるよ」

「バカね、何言ってるの」

そう言いながら顔を赤らめる。

そんな二人を温かい目で見つめる神父様だった。

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