第3話 裏街

 龍造は例の施設の近くにある街にきていた。

誰かの助けを呼ぶ声が気になり、探った結果そのあたりと判断したためだ。

ホテル、と言っても本当に安宿しか無かった。

高級ホテルもあったがほとんど貸切状態で、軍関係者がそのほとんどを占めていた。

ホテルの食事は口に合わなかった。

仕方なく外でレストランを探して歩いていた。

もう暗くなっていたから明かりや電飾看板で食事が出来る店かを判断できた。

(む、誰だ。どこにいる)

能力で龍造の胸ポケットに入れられた財布を盗もうとしていることに気が付く。

見つけた。

龍造からは10メートルほど離れた場所にいる、シルエットからして女性だろう人物が能力者だった。

能力をブロックすると、

(ちっ)

と舌打ちをして逃げていく。

後を追う龍造。

どんどん裏街の方へ入っていく。

男女の集団の中に先ほどのシルエットが見える。

近づいていくと集団は龍造を囲もうとしている。

かまわずそのシルエットの人物に近づく。

「おっと、ここから先は通行料が必要だ」

数人が龍造の行く手を遮る。

無視して進む龍造。

棒や石を手に襲いかかってくる。

棒を手の平でそらし、石はよける。

殴りかかってくる相手をいなし、そのまま進む。

さらに数人が襲ってくるが同様にいなす。

シルエットの人物のすぐ近くまで来た。

やっと容姿が判る。

まだ17、8歳位の少女だった。

整った顔立ちの、なかなかの美少女だ。

それまで逆光で判らなかったが、その集団は子供ばかりだった。

「さっきのは君だね」

「お前も能力者だね、それも私より能力の高い」

「・‥」

質問に答えない龍造。

探ると能力者はその少女一人のようだ。

「あんなことをいつもしているのか?能力をあんなことに使っているのか」

「私たちが生きていくためだよ、仕方ないだろ」

突然、警笛が響き、警察隊がやってくる。

「ヤバイ、警察だ。おまえはついてこい。皆、逃げるよ」

もう慣れっこなのか、集団の子供達は四散してゆく。

龍造の手を引き、少女は走る。

「あんた、跳べるかい?」

「どのくらい?」

「5メートル位、ジャンプするよ」

「判った」

「皆が逃げられるよう、私たちが囮になるんだ」

少女のやろうとしている事を瞬時に理解する龍造。

「了解した」

他の子供達を見失った警官達は二人を執拗に追いかけてくる。

体のまだそれほど大きくない子供達は、警官が来られない場所を抜けて逃げた様だ。

「よし、このまま行けば行き止まりだ。追い込め」

警官達が集まってくる。

袋小路の目の前に、高い壁がある。

3メートル程まで引きつけ、二人はその壁を飛び越える。

唖然とする警察官達。


「あんた、案外いい人?」

「どうだろう」

「私はソフィア。あんたの名前は?」

「龍造。日本という国から来た」

「ユウゾウ?」

「違うよ、龍造」

「リュウゾウね、・‥ついてきて」

ソフィアと言うその少女は龍造を街外れの教会につれてきた。

礼拝堂とは別の建物の扉を開け、

「ただいま、皆いるかい?」

『いるよ!』

全員が答える。

「ここが君たちの家かい?」

「そうだよ」

「教会に住む者が、あんな真似しちゃだめだろう」

「さっき、畑があっただろう。以前はここもこんなに多く子供がいなかった。だからあの畑や寄付金で食べていけたさ。でもね、どの街だって、貧乏人の方が金持ちより多くいるものだろ。育てられない赤子をここに捨てに来るのさ。それでいつの間にかこんなに増えちまった。まだまだ増えるよ。限られた広さの畑じゃ収穫できる量も多くない。子供が増えたからって、寄付金が増えるわけでも無いのさ。パパは、あ、パパってここの神父様ね、判っていると思うけど。私財を売り払って私たちを食べさせてくれているけど、それもそこをついちまったのさ」

「・‥」

「いけないことなのは十分承知しているさ。だけどもう限界まで来ちまったんだ。私はね、街で募金を募ったさ。だけどそんなに集まるものじゃない。幸か不幸か私にはあの力があった。だから裕福そうな奴らから強制的に募金をして貰っているのさ」

「それでも」

言いかけた龍造を遮るように涙ぐみ、訴えかけるソフィア。

「私だってあんなこと、したくないよ。だから毎日祈ったよ。神様、お助け下さいって。だけど誰も助けてくれない」

(あの声はこの子だったのか)

「力をあんなことに使ってはいけない。正しく使えば、皆を幸せに出来る力なんだ」

「だったらあなた、助けてよ!・‥ごめん。こんなこと、初対面の人に頼むことじゃないわね。あまり量は無く、味も悪いかもしれないけど、今夜の御礼も兼ねて食事を私たちとどう?」

「喜んで」

慎ましやかだが、愛のこもった食事だった。

大きな子は自分より小さな子の食事を手伝っている。

自分の分を分け与えている子もいる。

ソフィアもその一人だった。

皆と食事をしているソフィアはとても美しかった。

はじけるような笑顔が龍造には眩しく写った。

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