5.
二次面接で落ちるわけないと思っていたわけではないが、あまり集中できなかったことは確かだった。
面接官は3人で、歳は、当たり前だが僕よりだいぶ上だ。父親と近いかもしれない。面接が始まってすぐ圧迫面接じゃないらしいことを知ると、あとは慣れたものだった。
自己紹介。志望動機。あとは質問に答えるだけ。志望動機は会社ごとに微妙に変えるが、改めて覚えなくてはいけないほど変えないし、自己紹介は何十回も言ってきている。質問だって、ほとんどが答えたことがある、または想定していたものばかりだった。
この人は、僕のなにを見ているのだろう。そう思いながら、受け答えをする。
志望動機なんて、本当に信じているのだろうか。
「モノ作りに昔から興味があります。できれば人の役にたちたいものが作りたくて、御社を希望しました」
「へー。もの作りが好き。どんなもの作ってきたの?」
「はい。小さなころは――。大学に入ってからは――」
面接官だって、僕がここを第一志望にしていないことくらいわかっているだろう。もう夏休みも入ったこの時期だ。ここだって、すでに内定を出しているだろう。あと何人欲しいのだろうか。もう要らないのだろうか。いや、これだってお金をかけているはずだから、少なからず希望はあるはず。
「得意は科目は?」「サークルは入ってないの?」「今まで困難に立ち向かった経験は?」「飲み会は好き?」
人柄、なんだろうか。
ここまでくれば、頭の良さでは勝負できない。そもそも一次試験にやったテストでそこそこできているから、ここに呼ばれたのだ。
……じゃあ、この人たちは、僕のなにを引き出したいのだろう。なにを答えればいいのだろう。
なにを見れば、OKがもらえるのだろう。
優しさだろうか。
真面目さだろうか。
素直さだろうか。
声の大きさだろうか。
座り方だろうか。
愛嬌だろうか。
笑い方だろうか。
言葉使いだろうか。
スーツの着方だろうか。
髪の乱れ方だろうか。
ヒゲの剃り方だろうか。
足の組み方だろうか。
指の動かし方だろうか。
「では最後に、なにか言いたいことはありますか」
「はい。僕は――――」
言葉で信じてもらうにはどうしたらいいのだろう。嘘をつくかもしれないと仮定して、その正解は誰にもわからなくて、自分しか信用できないとき。
目の前の言葉を、全く疑いなく信じるというのは、どんな気分なのだろう。
面接は終始穏やかだった。僕もつっかえることなく落ち着いて質問には答えられたし、向こうもこちらも笑顔だった。悪印象を与えるところはなかったような気がする。
あとは、多少、上の空であったことと、入りたいという熱意が足りなかったかなと思ったくらいだ。
この会社に入りたいか、正直、まだわからない。
仕事内容は知っている。興味もある。しかし、それをあと数十年続けられるかと聞かれれば別だ。飽きないだろうか。想像と違ってないだろうか。楽しいところだけ聞かされていないだろうか。
今回はやけに頭を過ぎった。
集中できなかった原因はそれだ。それさえなければ、もう少し前のめりで受け答えできた気がする。
「失礼します」
面接室から出て、採用担当に終わったことを報告、まだ気は緩めない。「どうだった?」から始まる会話も滞りなく終え、会社をあとにした。
あと3人。面接が残っている。あの3人は、なにを見られるのだろう。最初の一人は、なにを判断されたのだろう。
履歴書の、なにを見られたのだろう。
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