3.

「死ぬ……ってさ」


「うん」


「どういう意味?」


「……どういう意味って?」


 いや、意味なんてわかっている。死は、死だ。ここも向こうもそれは同じだ。


 わかっていても、確認しておきたかった。


「死んだら生き返らせることはできない?」


「できない」


 きっぱりと言った。その言葉には『たとえどんな奇跡が起ころうとも』とついているような気がした。


「滅亡……だっけ?」


「そんなことは言ってないと思うけど、おそらく、魔法使いはみんな死ぬでしょうね。もちろん、寿命とかいう意味じゃなく」


「魔法使い限定?」


「魔法を使わない動植物は生き残る」


 裏を返せば、人間は全滅ということだ。


「それは、どうして?」


 なぜ今まで訊かなかったのか不思議だった疑問を今ぶつける。ミナも待っていたようで、声のボリュームを少しだけ大きくした。


「毒よ」


「毒」それも、死と同様にピンと来ない。


「その毒は魔力に混じって、私たちの体内に入ってくるの。そんで蓄積される」


 だから、魔力、すなわち魔法を使わない動植物は生き残るのだとミナは言った。


「月並みな言い方だけど、解毒、とかは」


「できない、でしょうね」


「魔法でも無理?」


「はい」


「それは、極々少量でも命を脅かすようなものなの?」


「いいえ」ミナが頭を振ったのがわかった。


「毒性自体は弱い。魔力と結びついたものが体内に入り蓄積され、私たちを徐々にむしばんでいく。そういった類のもの。だから一度に大量に摂取すれば危険だけど、計算上、そこまで一度に魔力を取り込むことは不可能だと思う」


「計算上、って言ったけどさ。じゃあ、どのくらいで、みんな、死ぬの?」


 その毒とやらが蓄積され、体に害を及ぼすまで。どのくらいの猶予があるのだろう。


「……今のままが続けば、4、50年は大丈夫だと思うけど、早ければおよそ、10年と言ったところかな」


「10年」


 思ったより猶予はあるような気がする。けれど、10年が本当に長いのかまだ僕にはわからない。僕の人生の半分。それと同じ時間だ。


「……そっか」


 最悪のケースだけどね、とミナは言った。


「ちなみに、その10年で、ミナの世界でなにか対策は打てそうなの? 薬ができてもう少し猶予ができるとか」


「…………」


「ミナ?」


 無言、だった。


 嫌な予感がした。


「ごめん」


 ミナの声は笑っていた。自嘲を含んだ笑みだった。


「実はこれ……まだ誰も信じてもらえていないんだ」


「……信じてもらえてない?」


 毒が? 魔法使いが全滅するという毒が?


 信じてもらえてない?


「話せる人にはみんな話した。けど、誰にも信じてもらえてない。……でも、本当に、本当に毒はあるの! けど、みんな死ぬって言ってもあまりに突拍子のない話だから信じてもらえなくて……」


 消え入りそうな声だった。実際、最後は空気を吐き出しているようで音になっていなかった。


「魔法を知らない三鍵くんにこんなこと頼むのは心苦しいんだけど、キミだけが頼りなんだ。だからお願い! 助ける方法を、一緒に考えて!」


 お願いしますと電話の向こうで頭を下げている様子が伝わってくる。本気なのだろう。それは充分に伝わってきた。


 だが。


 だが、これは、どうしろと言うのだ。


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