第27話 同年の従兄弟

「美味いな、これは」


 チョコレートケーキを一口かじるなり、赤毛の紳士は感心したように目を見張った。


「茶も上物だ。おまえ、いつもこんないい思いをしているのか? つくづくけしからんやつだな」

「なんできみに責められなきゃいけないんだ」


 あきれ顔で先生は応じ、客人の前からケーキの皿を遠ざけてぼくのほうへ押しやった。


「こんなやつにまで出してやることはなかったんだよ、ルカ君」


 はあ、とぼくは笑ってごまかした。お茶は、結局三人分用意して居間に運んだ。いくら先生の指示とはいえ、お客を放っておいて自分だけお茶を楽しむなんて芸当は、ぼくにはとても無理だった。たぶん先生なら優雅にやってのけるのだろうけど。


「みんなで食べたほうが美味しいですから」

「おい、いい子じゃないか。アーサーおまえ、どんなうまいこと言ってこいつをたぶらかしたんだ?」

「それ以上ふざけた口をきくと叩き出すよ、ダリル」


 言葉はきつかったが、先生が赤毛の紳士に気を許しているのは明らかだったので、ぼくは安心してケーキを頬張った。まだほのかに温かいケーキは、文句なしに絶品だった。


「ルカ君、このうっとうしい男はわたしの従弟いとこでね。ダリル・チェンバースという」


 ぼくはあやうくケーキを喉につまらせるところだった。チェンバース。それはあの闇色をまとった紳士の名だったはずだ。


「うっとうしいとは何だ」

「暑苦しいのほうがよかったかな。きみとは夏に会いたくないね」


 ケーキのかけらを呑み込んで、ぼくは「先生」と小声で呼びかけた。


「チェンバースって、あの……」

「ああ、わたしの一族だよ。前に話しただろう?」


 なんでもないことのように返す先生に、赤毛の客人は何か言いたげな視線を送り、だけど何も言わずに二切れ目のケーキに手をのばした。


 先生の一族。たしかに先生はあの紳士をチェンバース卿と呼び、一族の長老格だと説明してくれた。そして、ぼくの目の前で黙々とケーキを平らげている――ぼくのお代わり分が残るか心配だった――ダリルさんもチェンバースで、なおかつ先生の従弟だという。


 だったらなんで、とぼくはひそかに思った。どうして先生はチェンバースじゃなくてシグマルディなんだろうと。それから、あの闇色の紳士と先生はいったいどんな間柄なのだろうと。さすがにこんな立ち入ったこと、とても口には出せなかったけれど。


「従弟といっても年は同じだけどね」

「そうとも。だからおまえに兄貴づらされる筋合いはない」

「きみみたいにわずらわしい弟分なんて、こっちから願い下げだよ。なんだっていつも突然押しかけてくるんだい」

「おまえのせいだろうが」


 最初の怒りを思い出したように、ダリルさんは憤然とカップを置き、ふところから何かを取り出して先生に突きつけた。


「これはなんだ、アーサー」


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