第9話 近況報告20200206 西尾強さんのこと

大学、大学院時代の先輩である西尾さんにご挨拶にあがる。


何十年ぶりだろうか。自然体が大きなサイズの服を着ていた。いきなりヘッドロックされることを少し期待したのだけれど、円熟したラガーマンはそんなことはもうしなかった。少し寂しいが、それがXPでもVistaでもない最新の豪腕精密コンピュータであった。今も現役選手として野望を抱く姿に融合中の重水素を感じる。仕事では第一バイオリンであることをやめ、指揮者になった音楽家の、豪とした雰囲気が漂う。社長になられたのだ。


だらだら雑談をせず、撃てば響くような目的指向論理思考。笑いよりも笑みといった表情。剣豪のように自信にあふれた姿。たしかにこれはファンが多そうである。こんなかただったのかという驚きと、こんなかただったよという納得が同時に去来する。


大昔に自主ゼミで西尾さんから、Cの関数ポインタとは何で、どう使うのかを質問されたことを思い出した。あの頃はCが出始めた頃で、わからないことが多かった。「GUIのボタンへの機能の動的な割り付けなんかに使えるんじゃないですかね」と答えると「なるほど。なんとなくわかったよ」とニッコリされた。あの頃の西尾さんにスピード感はなく、山がのっしのっし歩くような感じだったのだが、お会いしてからというものチューンナップされたエンジンの出力に風景がかっとんでしまっている。


自分の人生を振り返り、仕事の経験をお話しすると興味深く聞いていただけた。人材紹介業もされているとのこと。さまざまなアドバイスをいただいたのだが、恥ずかしくなるくらい自分の世間知らずを自覚してしまうこととなった。


ふとした拍子にForbesを開くと、私に会わせたいかたがいるとのことで、若い社長を紹介された。夏井淳一さんである。略歴を読んだら吹いた。わたしが以前やっていた仕事とモロに関係しているのだ。医療にiPadを搭載するシステム。西尾さんも驚いて大笑いした。早速、早すぎるくらいの速度で電話をかけると、夏井さんも電話の向こうでミラクルを楽しそうに笑っていた。いまは再び安光さんの会社にお世話になっていることをお伝えすると、せっかくなのでお会いしましょうということになった。もしかしたら仕事をお手伝いすることになるかもしれないらしい。西尾さんは「WINWINWINだよね」と満足気である。底が知れない。


わたしは自分を優れた技術者と思ったことは一度もない。与えられた文脈でてんやわんややっていただけである。それを正直に伝えると、論理性があるやつは世の中には少ないから私はこれでいいのだと言われた。難しい点はこちらがサポートするからと。履歴書でも出しましょうかと申し出ると、自分の信用があるから大丈夫だと。


結局、仕事というのは人間が作り出しているのだ。人脈という言葉には冷たい散文的な匂いがするので使いたくない。西尾さんの使われた信用という言葉がいちばんしっくりくる。西尾さんは第七感としてそのエネルギーの質と量を見極める力があるのである。ここまでくるのにどれくらいの失敗と成功を繰り返されたのか、月に行くくらいの人類の歩みを思う。


私が文章を真面目に書いており、業として行っていることを知ると、もう一社企業に声をかけてくださった。思いついたら即行動。そこに生き方の秘密がある気がしている。本気かどうか、相手に伝わるかはそこにでるのだ。


人間力とはなにか?

どこからか、わたしに学べという声が聞こえる。


追伸

わたしが文章を書くように、西尾さんはラグビーを追っている。おたがい、いつか追い越すつもりでいるらしい。

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