第7話 近況報告20200129 または、雲と烈風

ねむけが珈琲にとけていく冷たい雨の朝です。三軒茶屋は起きたばかり。


駅からの800メートルは、入居当初は気が遠くなるくらいのウンザリでしたが、慣れるとあっという間です。車の生活に萎えた足と精神が、生き方を東京にアジャストするのでしょう。歩きの生活になると酒量が増えます。それほど東京が魅力的な街であるということでもありますが、からだにはよくありません。昨日はタイ料理屋に引っかかって、グリーンカレーをアルコールで飲み込みました。自分のせいにする考え方は精神衛生に悪いので、せめておいしいほうが悪いくらいは言わせていただきたいのです。


上京の目的はビジネストレーニングです。PEXAというフレームワークを扱えるようになるために座学とOJTで勉強します。企業の基幹業務を、プログラミングを極力避けて構築するための仕組みで、費用時間品質などが極めて有利になります。うまくいかなかった案件の最後の駆け込み寺のような技術と言えます。プログラマは失業しますが。


講師は寺町康昌先生です。元大学の先生からマンツーマンでご教授いただくという贅沢ぶりです。どんな質問にもいやな顔ひとつせずに瞬時にお答えいただき、言いよどみがないのは本当に優れたかたなのだなと思います。IQの正しい使い方をご存知のかたなのでしょう。講義資料も完璧な出来上がりです。


わたしはというと、確実に知識は蓄積してはいるのですが、熱したやかんに手を触れるようなおそるおそるの部分がいくつかあり、目的と方法を説かれても考えるのが億劫な箇所があります。おそらく実務のなかで意味付けしないと理解はできないでしょう。


オブジェクト指向やUML、一般的な業務知識、最近の法制などがわからないと一周できないところがあり、エンドユーザーが扱うにはまだまだ敷居が高いところがありますし、利点や弱点などはITの深い理解がないと見えてこないところがあります。業務の分析をシステム化する部分でまだ専門家が失業することにはならなそうです。


いまの自分に足りないのは、仕事の仕組みを概観する能力でしょう。飲み会の席での世間話でも理解が足りないところがあり、ボ〜ッとしているのはアルコールのせいだと自分をだましたところもあるかもしれません。まだはじめて二日目ですが、異世界の言語はまだまだ難しいです。わかったつもりで口をはさむ人間になるくらいなら無口な秋田県人でいたほうがよろしいようです。


今後どうなるかどうするかというところを明確にできなかったのは明日以降の課題です。具体的にどう動くべきなのか、起業のタイミングはみたいな話は味覚糖じゃなかった未確定なところが多いのです。登る山はあっても天候もわからず、ルートも出立時刻も決まっていません。遠くの目的地を個人の鉄路のポイント切替につなげなければなりません。


ともあれ、最初は対象となる仕事の流れをつかむために簿記の勉強をすることにはなりそうです。安光さんも寺町先生も苦労されたとのことで、わたし程度の腑抜け具合で歯が立つかどうかはわかりませんが、百点満点を目指すわけでもないのだから、ボチボチやれるようにスケジューリングしておきます。


飲み会が終わって携帯を覗くと、小説の読者さんからの感想が届いていました。おそるおそる読むと、文章力を絶賛し、内容に深く満足したと書かれていました。こころが舞い上がるときは無音なのです。あるかたから物書きは趣味にしておけと言われましたが、こういうことがあると「と金」になるために進んでもかまわない気がしてきます。自分は技術者としては凡庸ですが、ペンをとったら希望を描いてもいいのではないかと。


人生は金なのかなあという雲は烈風にちぎれ飛んでいくのです。朝日がさすかどうかはアポロンにきいてください。

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