第4話 東北地方旅行記 その2
起きて息を吸った瞬間、宮沢賢治の体臭がしました。花巻の朝です。
小高い丘の上に宮沢賢治記念館と山猫軒があります。喉がアイスコーヒーを求めたので、まずは山猫軒にて食事をすることにしました。「クリームをよく塗りましたか、耳にもよく塗りましたか、」とまでは言われなかったので、わたしを食べる企みは存在しないようです。朝ご飯に1600円かける気はなかったのでナポリタンにしたのですが、口のまわりが赤くベトベトになりました。いつまで経ってもナポリタンの食べ方には慣れません。コンソメスープが口に合い、それで貧乏ゆすりが止まりました。数年前からプリントのあるご当地黒Tシャツを集めるのが趣味だったのですが、今回は購入しませんでした。なぜなら「雨ニモマケズ」と書かれたTシャツはすでに持っているからです。そう、ここは再訪なのです。
記念館は賢治ゆかりのもので溢れていましたがあまり興が乗らず、わたしは特別展「貝の火」で絵本を読んで過ごしました。解説にあった勧善懲悪因果応報というより、身の丈に合わない善のこころなど持つなという教えに思え、そのギャップがいまでも心にひっかき傷を作り続けています。
夕方には仙台に到着。大学教員時代にお世話になった「岳山珈琲」のご夫婦にご挨拶にうかがいました。泉ヶ岳の中腹にあるカフェで、街中が晴れてもこちらは雪が積もるような高地に店を構えられています。南千住の有名店「カフェバッハ」の直弟子にあたり、異次元の品質のコーヒーを提供されています。ご無沙汰していた1年半で榴岡に二号店まで展開され、暗黙裏に人気は広がっていっているようです。近況を報告した後、岳山ブレンドの懐かしい苦みをふたたび口に含みました。
一時間かけて山形に到着。途中、カーナビが発狂してどうしても高速にのせないように反逆したので黙殺しました。
今回の山形訪問は映画鑑賞のためです。秋田では観られないのです。
「T34 レジェンド・オブ・ウォー」
ロシアで作られた正統派戦争映画です。十回機会があったら十回観る映画でした。
わたしにとって独ソ戦は、タミヤカラーを塗り、サイコロを振り合った思い出のかたまりです。最近はポリコレがパンデミックしていますが、だれかに媚びることのない描写は久しぶりに観ました。男が男らしく、女は女らしく、赤軍の泥と誇りに対しナチは気障でした。
戦争映画の形をとった騎士道物語のようにも思える内容で、馬と姫と従者です。ズバッと聖書的であったりもしています。数倍の敵に勝つことなどは実際はありえないのですが、これはレジェンドなので砲弾の弾道は神がかりです。装甲が砲弾をはじく描写には毎回熱湯のような汗が出ました。
ぜひ巨大なスクリーンで観ていただきたいと思います。おすすめ以外に何を言っていると思いますか?
山形に来て蕎麦を食べないで帰るわけにもいかないので、深夜に営業している屋台村で「やまや弥平」というお店に入りました。味覚的にも人間的にも魅力にあふれたお店でした。アタリを引いたといえます。カウンター8席の小さな店で、人なつこい若おかみ、親切な常連さんと一期一会の友達になりました。再訪の動機をいただいたことに感謝いたします。
後記
いまは湯沢にあるローソンの駐車場です。平沢進や遊佐未森、ヘイリー、YMOなどといったお気に入りの音楽に囲まれて、いつ居眠りをしてもいい気分でおります。
二日間の夢でしたが、見知らぬかたがたのさわやかさ、再会したかたがたの快活な笑顔だけは備忘として文字にしておきます。
雪がちらちら降ってきましたので、温泉は入って帰ろうと考えています。
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