第3話 素材本来の味です!
◆
「サパタくん、バンドやってるんでしょ!? 私、見てみたいな!」
「うわー!」
翌日の六限後、シミズに捕まった俺は思わず悲鳴を上げた。
周りの興味津々な視線にげんなりする。
「きょ、今日は練習無い。シミズも部活あるだろ」
「書道部なら辞めたよ」
「え」
彼女は思わず固まる俺を満足げに眺めた。
「今日の新しい私情報でした。ライブ、楽しみにしてるから」
それで微笑みを残して彼女は去って行ったが、それからシミズは毎日話しかけてくるようになる。
◆
「おはよう! 数Ⅱ得意だったよね? 今日の予習見せてよ!」
「お前、俺のwIkiか何か?」
「彼氏のことだもん。皆から情報収集したよ」
「俺の情報はそんなに出回ってるのか……。てか予習無しって、そんなんで学年トップ守れんの?」
「うん、今日から予習も復習もしないことにしたんだ」
「……ああ、そう。合ってるかわからんけど、これ」
「ありがと」
◆
「わっ!」
「え……うわっ!!」
「はは、驚いた?」
「それよりその服何!?」
「え、この柄ダサい?」
「全面に
「毎日着るのめんどかったんだよ~。私服って難しいね」
◆
「なあ。今日マスクしてるのって、風邪?」
「化粧止めたから。それだけ」
「何だ、心配して損した。じゃまた明日な」
「うん、また明日」
◆
「そのローストビーフがいいねと君が言ったから……」
「止めろ、箸を伸ばすな。ローストビーフ記念日中止!」
「ならローストビーフを賭けてクイズだ! 今日はどこが新しくなったでしょう?」
付き合ってから半月経ち梅雨に突入すると、俺とシミズが一緒に飯を食っててもクラスの連中は気にしなくなっていた。
「声低くない?」「目ヤニ?」「貧乳化?」「尻だろ尻」
……茶々はよく入るが。
「ハズレ、あと下品な男子は退場処分」
連中は
向かいの席の彼女は腕組みし、俺を試すかのような視線を向けてきた。
「サパタくん?」
え~~~~~~~。
◆
「あーここでやってたんだ」
「おいっ結局連れてきとるやんけ!」
放課後、シミズを見てVo.はやはり激怒した。
「仕方ねえだろ、ローストビーフの交換条件に出されちゃ」
「意味わからんわ!」
「ごめん、僕、お邪魔でした?」
と、シミズが手を合わせたら、机を片付けていたBa.がこちらを見る。
「えー僕とキャラ被ってんじゃん」
俺は目を
「一か所にボクっ娘が二人!? 因果律が崩壊して銀河が滅ぶぞ!」
「嘘だ。漫研とか演劇部行けば
Dr.が冷静にツッコむと、シミズは少し笑う。
「サパタくん、ふざけられる相手とかいたんだ。意外」
「君も何か噂に聞いてたのとちゃうやん?」
Vo.はまだ不満げでシミズをジロジロ眺めた。
「イメチェン中。
そうして苦笑する彼女は、俺達よりよっぽど大人びていてカッコいい。
……上下灰色のスウェットでも。
「僕は頑張ってボクっ娘してるんだけどな」
「そうなの?」
と、Ba.とDr.はどこか気まずそうに二人で雑談を始めたが、Vo.はシミズとしばらく見つめ合ってから頷いた。
「まあ聴いてってや」
「どうも」
それから始まった俺達の演奏にシミズは何とも言えない表情だったが、誰かの目があると練習にも身が入る。曲の合間に会話も弾み、休憩に入る頃には全員すっかり打ち解けていた。
「思ってたより上手だったよ」
机に腰掛けるシミズが、隣に座った俺へ伏し目がちに告げる。
「いーよ別に。好きでやってるだけ」
「僕も楽器やってみようかな」
「実は空いてるパートがあるんだ、どう?」
と聞くと露骨に嫌そうにするので、俺も顔真似してみた。
しばらくして、先に笑ったのはどっちだったろう。
「あっ、短くなってる!」
Ba.の呆れ声に首を向けると、彼女はおやつのチョコ菓子を摘まんで掲げていた。
小さな茶色い板状の塊が、どんより雨雲から淡い光に
「ホンマや。数減らしに次ぐ新技やね」
「ステルス値上げってのだな」
Vo.とDr.がしみじみ言い、Ba.がハーと溜め息。
少し気温が下がった気分。
「――どんどん小さくなって、最後は無くなっちゃうのかな」
◆
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