第2話 余計を省いてさっぱりと!
◆
次の日。
「ああ七時半だ! ダメだ、オレはもうダメだ!」
いつも通り、朝は親父の絶叫から始まった。
俺は布団から出て飯の準備。冷蔵庫からビニ弁を取り出してレンチン。居間の床で騒いでる親父の前にも一膳、缶チューハイと一緒に置いて黙らせた。
「朝のシフト大丈夫かよ」
「ダメだ……」
「早く行けば」
それだけ言うと弁当をかっ込み、着替えたりして家を出る。
いつも通りの朝、雨の降る。
そのはずだった。
「おはよう、サパタくん!」
緑の傘、紺のブレザー、紫のスポーツバッグ。
泣きボクロの無い美しい顔。
「うおっ!」
玄関出たら目の前にシミズレイネが立っていた。
何故俺の家を、隣町に住んでるはずじゃ、いや、そんなことより……。
「か、髪が」
無い。
腰まであったはずの
「ああこれ」
彼女は何でもないように毛先に指を這わし搔き上げ、俺にたなびく緑の黒髪を幻視させる。
潔いような、残念なような……でバカみたいに
「今日は、“説明”をしたくて」
そう切り出すと、彼女は
「せ、説明?」
仕方なく傘を差して後を追う。
完全にあっちのペースだ。
通りに出て、学校の方へ曲がると彼女は話し始める。
「昨日はビックリしたでしょ。みんなうるさいし」
「まあ」
「ごめんね。でもこれは必要なことで」
学校までは自転車がギリギリ要らないぐらいの距離。
俺とシミズレイネの距離は大体一mぐらい、今、追いついて六十㎝程。
「私、実は新しくなろうと思ってて。だから君との関係もその一環」
「全然わからない。なんで俺?」
「
そうエセ中国人っぽく茶化した後、彼女は少し真面目な調子で息を吐く。
「ほら、私友達も多くて、モテるし。勉強とか部活も頑張ってて。ちょっと疲れちゃって」
そう言う彼女の表情は傘で隠れて見えない。
「色んなところを少しずつ手を抜いてこうかなって。髪も手入れ怠かったし。彼氏の影響でイメチェンってことにして、少しずつなら案外バレないと思うんだよね」
俺は呆れてすっ転びそうになった。
「ビニ弁かよ」
「え?」
傘をもたげた彼女はキョトンとしている。
「ほら美味しくなって新登場とか言って、飯の量やおかずの数減らしてしれっと同じ値段で売るやつ」
「あはは、そうかも」
納得したように頷いてからシミズレイネは急に「あ」と声を漏らした。
「そう言えばサパタくん、うちがコンビニやってるって本当?」
「だから何で知ってんだよ!?」
「
マジか~。
「だからいつもお昼がビニ弁なんだ、イメージ通り」
「職業差別だぞ」
「やっぱり
「……本当はいけないんだけど」
「じゃあ
結構意地汚いな……。
少し幻滅しながらも、学校に近づくにつれ他の生徒の視線で顔は赤くなってきていた。
「シミズさん、無理だよ。悪くなってるかもしれないし」
すると、シミズレイネは眉根をくっと寄せる。
「レイネでいいよ」
「やだよ」
「じゃあシミズ」
「……」
彼女は体をグイッと寄せ、俺の傘下に侵略してきた。
耳元に息が吹きかかる距離で彼女はこう言う。
「付き合ってるのに名字で呼び捨てなのって……ちょっと良くない?」
良い!
◆
「ウチは
放課後、バンドの練習に行くと
場所は現音部用の防音室、ではなく一年の教室を不法占拠。
「聞いたで。君があのシミズレイネと付き合うて」
「ああ……」
俺がギターを
小柄な女子であるVo.は俺に詰め寄ってギロリと見上げた。
「ビートルズや。わかるやろ?」
そんな大したバンドじゃない。
再来月の
「レノンとヨーコにはならねーよ」
「ホンマに?」
「何か彼氏がいるって名目が欲しいだけみたいだから。俺には興味無いだろ」
「何やそれ」
「罰ゲームで告白的な?」
Ba.が弦を
「かも。まあ俺にとっては罰ゲーム、クラスじゃ針の
「気色悪いわ」
とエセ関西弁で吐き捨てると、Vo.はとりあえず納得いったようで俺から離れ、Dr.に手を振った。
「1、2、3」
大男のDr.が野太くカウントし、Vo.が
ギターは好きだ。うるさくて、手首が痛くて、後は何もない。
騒音、掻き鳴らして行くぜ!
◆
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます