12日目 「錯綜する使命と情報」
もう昼休みも半分以上過ぎた学食には、生徒の姿もまばらだ。
売れ残っていたサラダパンと、紙パックのコーヒー牛乳を抱えて、和仁は席に腰を下ろした。
廊下でまたアリスと瑠衣が何やらモメているところに遭遇し、
見つからないよう逃げ隠れしているうちに、こんな時間になってしまったのだ。
「――入枝くん、だったわね」
顔を上げると、2つに分けた髪をお下げに編んだ女子生徒が立っていた。
朽永
和仁ももちろんその存在は以前から知っている。
しかしクラスも違うし、今までまともに会話したこともない。
「梨乃から色々と聞いてるわ」
そう言いながら梨央は、意外なことに対面の席に座った。
……そう、あのおしゃべりそうなウェイトレスの子は、会長の双子の妹だと言っていた。
生徒会にも要注意人物としてマークされてしまったのだろうか。
自分のせいではないとは言え、心当たりがなくもないだけに困る。
「お弁当ではないのね。兄弟姉妹がいる家庭は、お弁当のところが多いものだけど」
「うん、まあね」
「そう。……家庭にも色々あるものね」
そう言いながら梨央は、持っていたパックの牛乳を自分の真正面に置き、まっすぐにストローを刺した。
こうして向かい合ってみると、彼女に近寄りがたい印象があるのは、
生徒会長だからとか身だしなみがキッチリしすぎているからとか、そういうことだけではないことに気づく。
動作のひとつひとつに、妙にスキがない。何か武道の心得でもあるのかな、と直感的に和仁は思った。
双子の姉妹で顔もそっくりなのに、こうも違うものだろうか。
「そう言う会長は……ダイエット?」
しかし、別にその必要はなさそうに見える。
これもまた、どちらかと言えば胸のあたりがふくよかな梨乃と違い、梨央はすらりとしたスレンダー体型である。
「この牛乳は美味しいし、栄養があるわ。これで充分」
「まぁ……食べ過ぎると午後眠くなっちゃうしな」
梨央はストローをくわえ、パックの中身を静かに一口飲む。
「……牛乳は美味しい」
真顔で2回言った。
なんとなく――このところ各人各様にぐいぐい来るタイプの女の子とばかり接していたせいか、
梨央のこの空気と距離感が少し居心地よく感じられる。
和仁は、思い切って梨央に話してみることにした。
「校内に不審者が出入りしている……?」
昨日の、円場奈々と名乗った猫耳帽子の少女のことだ。
実は、アリスから逃げるついでに1年の教室をさりげなく見てきたのだが、それらしい顔も名前も見当たらなかった。
しかし彼女の言動からすると、学校に入り込んでいる可能性も多分にある。
「それは穏やかではないわね。先生方にも報告して、対応しておきます」
「さすが生徒会長、頼りになるね」
その言葉を聞いた梨央は初めて、少しだけはにかむように顔をほころばせた。
「ええ、まかせておいて。私は、生徒会長だから」
――あと18日。
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