11日目 「ネコと和解せよ」
翌日になって、いちおう警察に通報してみたが、
『パトロールを強化します』の一言で終わりだった。
実際、今の段階ではそれ以外にどうしようもないのだろう。
たまたま誰かが通りすがっただけかもしれないし……
そう思いながら何気なく窓の外を見た和仁は、思わず絶句した。
家の前を、帽子をかぶった人影がうろついている。
その人影は、白昼堂々と門扉を開けて敷地内に入り込むと、当然のように郵便受けを開けて中を探りはじめた。
(どうする……!?)
親たちは外出中だし、愛海を危険にさらすわけにはいかない。自分が何とかしなくては。
そう考える間にも、身体はすでに表へと飛び出せるように動いていた。
スクールバッグを引っ掴んで部屋を飛び出す。
振り回せば武器がわりになるし、もし相手が刃物でも持ち出してきたとしても、最低限の盾として使える。
写真を撮っておけば、とも一瞬考えたが、そのまま足を止めずに階段を駆け降りる。
2階から見たその人影は、小柄な少女のように見えたからだ。
どこまで証拠になるかわからないような、とっさに撮った写真より、
直接本人に問いただしたほうが確実だと思った。
勢いよく玄関の扉を開けると、郵便受けをあさっていた少女とちょうど目が合った。
和仁の知らない顔だった。
猫のような三角耳のついた黒いニット帽に、ブカブカのパーカー。
背丈は愛海と同じぐらいだが、身体も手足も全体的に小枝のように細い。
見知らぬ少女と和仁は、しばらく無言のまま見つめ合っていた。
猫耳帽子の少女は、右手に白い封筒を持ったまま、そろりそろりと後ずさる。
そして数歩下がったところで急にダッシュして、向こうの電柱の陰に隠れた。
「――にゃ、にゃーん」
その姿も、思いっきり見切れている。
そんな猫の鳴き真似なんかでごまかせる状況ではないし、そもそもぜんぜん似ていない。
和仁は念のためバッグを前に抱えながら、ゆっくりと少女に近づいた。
「えっと、君は誰? 愛海の友達……じゃないよなぁ」
「ナナ……。わ、私は、
少女は意外と素直に、つっかえながらもそう名乗った。
そこで和仁は、その少女が手にしている白い封筒に見覚えがあることに気付いた。
アリスがこれまで何度も下駄箱に入れていたという手紙は、
この子が持ち去っていたのだろうか?
……そして、それが今日、家の郵便受けに入っていたということは……。
和仁の視線の先に気づいたのか、少女は勢い込んで言う。
「あ、あの、あなたはっ、あの女に騙されているんですっ……!
彼女は危険なんですっ! 悪い悪い雌狐ですっ!」
顔を赤らめながら、少女はまるで熱にうかされたように喋りつづける。
アリスのことなのだろうか……おそらく、そうなのだろう。
「……でも、安心してくださいっ!
わ……私がこうしていつも傍で見守っていますから、ずっと……!」
言うだけ言うと、少女はくるりと回れ右して駆け出そうとする。が――
「はわわ……!?」
脚をもつれさせ、派手に転んでしまう。偽クロックスのサンダルが片方脱げて、
パーカーの下のワンピースの裾がめくれ上がり、下着があらわになる。
少女は顔をさらに真っ赤にして立ち上がり、身なりを整えると、
和仁に話しかける間も与えず、ぺこりとお辞儀して走り去っていってしまった。
――あと19日。
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