9日目 「思い出よりも重要な」
次はどんな形でアリスが接触してくるか、一日中ずっと気が気でなかった和仁だったが、
今日は下校時に瑠衣に捕まり、近所の公園まで連行されていた。
小学校への通学路の途中にある、団地に囲まれた小さな公園だ。
「懐かしいな。小学生の頃はよくここで遊んだよな」
「あー……そだっけ?」
「ほら、滑り台の上からあそこの木の枝に飛び移ったり……あらためて考えるととんでもないな」
「……そんなことしてたんだ」
(そういや、小学生になってからは、遊び相手は完全に男女に分かれてたっけ)
もちろん学校などでは普通に親しく喋っていたはずだが、記憶に差があるのはそのせいだろう。
しかし瑠衣にとっては、思い出話より重要なことがあるらしかった。
塗装の剥げかけた木製のベンチに並んで腰掛け、和仁はアリスとの経緯を事細かに瑠衣に話して聞かせた。
と言うより、強引に聞き出された。
「なるほど、急にモテ期が到来したのか、あのお嬢様から熱烈に告られてると」
「形としてはそうなんだけど……。
にしても、お嬢様って本当にいるんだな。なんか、住んでる世界が違うっていうか……」
「ん……まぁ、彼女はその中でもかなり特殊だと思うけどね。
で、和仁くんはどうすんの?」
「どうする、って……?」
「付き合うのかってこと。変わった子ではあるけど、お金持ちだし、美人だし」
色白で西洋人形のような端正な顔立ちをしたアリスは、控え目に言ってもかなりの美少女だ。
「好きだって言われたなら、断る理由はないんじゃない?」
煮え切らない和仁の態度に、つい言葉にトゲが混じりそうになる。
瑠衣は、少しだけ話の方向性を変えた。
「でも、羨ましいな。あそこの苺タルト、美味しいんだよね。
あたしもバイトしたら食べられるかなぁ」
そう言って、横目でチラリと和仁の反応を見る。
「だけど、あんなフリフリした制服、あたしには似合わないか」
「だよな」
「……肯定すんな」
「いや、瑠衣はなんか、ウェイトレスってイメージじゃなくってさ。
どっちかって言うと奥のキッチンで真剣な顔してケーキ作ってそうな……
そういう職人とか研究者みたいなのが似合うタイプだろ」
「…………」
瑠衣は少しうつむいて、口元が自然にゆるみそうになるのを隠す。
そんなふうに思われているのが、理解されていることが、嬉しいと大声で叫びたくなるのを必死で堪える。
(……でも今は、可愛くなきゃダメなんだってば。あの子たちよりも)
その様子を遊具の陰からじっとうかがっている人影に、ふたりは気づいていなかった。
――あと21日。
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