5日目 『白い封筒』

 月曜の夜。

 和仁は机に向かって宿題を片付けていた。


 コンコンと部屋のドアが2回ノックされる。


「お兄ちゃん。入っていい?」


 カチャリと扉を開けて、妹の愛海が顔をのぞかせた。

 この間それぞれ、0.5秒も開いていない。


 愛海は裸足でぺたぺたと部屋に入ってきて、言った。


「お兄ちゃん、わたしのぱんつ知らない?」


 風呂あがりらしく、濡れた髪と桜色に上気した肌を

 バスタオル1枚で覆っただけの妹の姿に、和仁は一瞬言葉を失う。



「……えっと」


 何から言ったものか迷った挙句、

 和仁はまずいちばん基本的なところから始めることにした。


「まず、ノックするのはいいけど、

 ちゃんと返事を聞いてから入ってくれないか」


「どうして?」


「急に開けられたら困るときだってあるだろ。

 着替えてたりとか……」


「……?」


 確かに、半裸で入ってくる妹の前では全く効果のない言葉だった。


「それから、フツー風呂に入る前に着替えは確認しないか?」


「置いといたつもりだったんだもん。

 お兄ちゃんだって、持っていくつもりで

 傘とか教科書とか忘れちゃうことあるでしょ」


 傘と下着とじゃだいぶ違うだろ、と思いながら和仁は続けた。


「……だいたい、なんで俺がお前の下着の場所を知ってると思うんだよ」


「だって、昔からわたしが失くしたお人形とか本とか、

 いつもお兄ちゃんが見つけてくれたでしょ」


「それはお前がいつもそのへんに置き忘れてただけだろ……」


 ため息をつきながら、和仁は言う。


「お前ももう子供じゃないんだから。俺たちが、その……

 ……あまり仲良くしすぎると、母さんがいい顔しないだろ」


「関係ないよ、そんなの」


 少し怒ったようにそう言って、愛海は部屋を出て行った。


 和仁はもう一度ため息をつく。

 机に向き直ったところで、部屋の外からまた妹の声が聞こえてきた。


「お兄ちゃん、あったー。わたしの部屋に落ちてた。

 パジャマと一緒に持っていこうとして、落としてたみたい」


「……わかったから、さっさと服着ろ。お前も風邪引くぞ」


 座ったままそう声をかけつつ、最後の問題を解き終える。

 和仁はノートをスクールバッグに放り込もうとして、

 バッグの脇のポケットに見覚えのない白い封筒が差し込まれているのに気付いた。


(なんだこれ……?)


 裏を返しても宛名も差出人の名もない。ただの真っ白な封筒だ。

 光に透かして見ると、何か文字が書かれた便せんが入っているようだ。

 しばらく迷ってから、和仁は中の便せんを取り出して開いてみた。


 印刷されたように綺麗で丁寧な字で書かれていたのは、たった1行。


『明日の放課後、屋上でお待ちしております』




 ――あと25日。

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