2日目 「君を待つウサギの内心」
ケーキ屋の角を曲がり、頭の中で10歩数えて、
瑠衣は足を止めた。
(……昨日は、久しぶりに彼と話せた)
バスの中でした、他愛もない会話。
友達のことや、TVドラマのこと、近所のお店のこと……。
彼についてはよく知っているから、話題が途切れることはない。
――でも、それだけだ。
(わかってたことだけどね)
幼馴染としての距離感は、途中までは有利だけど、
最後の一歩がとても遠い。
まるでおとぎ話のウサギと亀だ。
その位置に油断していると、後ろから追い抜かれてしまう。
初めてその話を聞いた時、瑠衣は、ウサギの気持ちもわかる、と思った。
野暮で残酷な「勝敗」という答が出る前に、
ただ自分の優位だけを信じて抱えてまどろむ時間は、
どれほど心地良いものだろう。
いっそ、いつまでもこの夢の中にいられたら……。
スマホを取り出し、時刻を確認する。
ついでにインカメラを見ながら前髪を整え、リップを塗り直す。
――冬は女の子をキレイに見せる。
何かの雑誌に載っていた適当なコピーが頭に浮かんだ。
(本当にそうだといいな)
でも、その条件はみな同じだ。
負けるわけにはいかない。
誰にも、彼を取られたくない。
4月からは、彼の妹の愛海がまた一緒に通うことになるかもしれない。
そうなるとやりにくくなる。
(……それまでに、勝負を決めなきゃ)
たぶんもうすぐ、彼が角を曲がって来る。
――あと28日。
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