1日目 「幼馴染とマフラーと」

 昨日に引き続き、妹が朝からちょっかいを掛けてきたりしたので、

和仁は早足でバス停へと向かう。


 ケーキ屋の角を曲がると、見覚えのあるベージュのマフラーとコートの

後ろ姿が視界に入り、和仁は少し歩く速度を鈍らせた。


 しかしそのコートの少女は、気配を察したのかくるりと振り向くと、

よくあるチェック柄のマフラーを指先で少し押し下げて、口元をのぞかせた。


「おはよう、和仁くん」


「……ああ、おはよう、瑠衣ルイ


 瑠衣と呼ばれた少女は、そのままその場で足を止め、

和仁は仕方なく彼女に追いつくまで歩を進めた。


「なんかイヤそうだね。そんなにあたしと通学したくない?」


「そういうわけじゃないけど……」


 自然とぶっきらぼうな調子になって、和仁はそう返した。


「昔は一緒に登校してた仲なのにねー」


「そうだっけ……? だとしても小学校の低学年とかの話だろ、それ」


「家も近くて学校も同じ、当然乗るバスも同じ。

 一緒になったってフツーでしょ。むしろ避けてんじゃん?」


「だって、いろいろ言われたりすんだろ。2人並んで学校行ったりしたら」


「……あ、やっぱ避けてたんだ」


 あくまで隣に並んで歩きながら、瑠衣が言う。


「男子ってバカだよね、そういうトコ。

 幼馴染なんだし、一緒に登校したぐらいで誰も何も言わないって。

 ……彼女でもできたって言うんなら別だけど」


 そして瑠衣は、上目遣いで和仁の顔を覗き込む。


「で、どうなん? クリスマスとかお正月とか、

 そのへん何かイベントでもあった?」


「何もないって。そういう瑠衣こそどうなんだよ」


「あたしは……そうね、3年になったら受験とかで忙しくなるし、

 今年中にちゃんと付き合えたらいいかなって」


「だったらなおさら、俺と一緒に歩いてちゃダメじゃん」


「は? なんで?」


 反射的に言い返し、しばらくしてから瑠衣は慌てたように付け足す。

 

「……だから、並んで登校したぐらいで誤解なんてされないってば。

 手でも繋いでたりすれば別だけど」


 そして瑠衣は、マフラーに吸い込まれて消えるぐらいの小さな声で

つぶやいた。


「――今はまだ、ね」





 ――あと29日。

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