第42話 ヘッドロックで抱きしめて

「えっ?」


いきなり手をつかまれて戸惑う私。


そんな中、谷座kはポケットからキラリと光るなにかを取り出した。


そしてしらっとした口調でこう言った。


「オレには、十分最高のクリスマスだけど」


そして。


すっと私の左手の薬指になにかをはめたんだ。


「え」


私は目を疑った。


だって、だって、だって。


私の左手の薬指にはめられたもの……それは、キラリと光るシルバーの指輪だったんだもの!



ウソーーーー。



ど、ど、どういうことっ⁉︎


「な、な、なにこれっ」


私は半ばパニック。


私の指に……シルバーリング⁉︎


しかも、薬指っ⁉︎


私は思わず口をパクパク。


「なに、って。オレからのクリスマスプレゼント。気に入らない?」


キョトンと聞き返す谷崎。


「き、き、き、気に入った!!」


嬉しいっ!!


谷崎、憎い演出するなよっ。


感動しちゃうじゃんか!


「あ……ありがとうっ……!!」


嬉しさのあまり、私の目から思わず涙がドバッと出てきてしまった。


「まーたすぐ泣くー。おい、ハンカチとかなんとか持ってないのかよ」


谷崎が私のバッグの中に手を突っ込んでゴソゴソとあさる。


「あ、なにこれ」


「あああっ。ちょっと!」


谷崎がバッグの中からひょいっと細長い四角の箱を取り出した。


きちっとラッピングしてあるその箱は、どこからどう見てもクリスマスプレゼント。


「もぉぉ!なんで勝手に出すのっ⁉︎あとでタイミングのいい時に渡そうと思って隠してたのに!バカッ!」


あまりの谷崎のデリカシーのなさに、私は涙も止まってバシッとアイツを叩いた。


もぉぉーーーっ。


やっぱり全然ロマンチックじゃなぁーーーい。


だけど。


「まぁ、いいじゃん。映画館でのプレゼント交換っつーのも、なかなかオツじゃねーか」


谷崎がグシャグシャと私の頭をなでた。


「…………」


まぁ……そう言われてみると、確かにそうかも。


これはこれで、なんかちょっと素敵かも。



「開けていいか?」


「う、うん」


谷崎が嬉しそうにそっと包みを外す。


そして、パカッと箱を開けた。


気に入ってくれるかな……。


ドキドキドキドキ。


すると、嬉しそうな谷崎の声が飛んできた。


「おお、腕時計か!おお、おお、いいじゃん」


「……気に入ってくれた?」


「おうっ。すげーいいよ。腕時計なかったんだよー。しかもオレ好み。サンキューな」


嬉しそうに喜んでくれる谷崎。


そんな谷崎を見て、私も嬉しくなる。


笑顔になる。


よかった、喜んでくれて。



『只今よりーーー。5番スクリーンにて上映の……』


館内アナウンスが聞こえてきた。


「あ、もう中に入れるみたいだよ」


ドヤドヤとロビーにいる人達がいっせいに動き出す。


「私達も行こう」


立ち上がろうとしたその時だった。


ガシ。


谷崎が私の腕をつかんで座らせたんだ。


「……なに?どしたの?」


そして、キョトンとしている私の目を真っ直ぐに見てこう言ったんだ。


「ーーー春姫、また親父とお袋に会いに来てくれ。今度はフリじゃなくて、ホントの彼女として。オレの婚約者としてーーーー」


え?


ほほ笑んだ谷崎が、私の左手の薬指のリングをちょんと触った。


「………………」


意味を把握するまでに数十秒。


ちょっと待って。


それって………。



「クリスマスプロポーズ……?なんつって」



谷崎がちょっとイタズラっぽく笑った。


ク、クリスマス……プロポーズ……。


プ、プ、プロポーズーーーー⁉︎


くらっ。


め、目眩が……。


「おお、おいおい。大丈夫かよ」


ど、ど、どうしよう。


私今、ものすごく嬉しくて。


気絶しそうだ。


また胸がじーんと熱くなって、泣きそうだ。


「……もうっ!感動させないでよっ!!」


ドンッ。


私は嬉しさと興奮と感動のあまり、思わず谷崎の体を思いっ切り突き飛ばしてしまった。


すると。


「おわっ」


勢い余って、谷崎はイスから転げ落ちて頭を打った。


げげっ。


なんか今、『ゴン』って聞こえたけど。


おそるおそる谷崎の顔を覗き込む。


「……大丈夫?」


「おまえぇーーー。大丈夫じゃねーよっ」


「……だよね。ごめん」


「………………」


「………………」


数秒の沈黙。


私達は2人同時に吹き出した。


そして、起き上がった谷崎が、笑いながら私に言ったんだ。


「まったく、ホント最高のクリスマスだよ。おまえのおかげで」


「ちょっと。それイヤミー?」


私がふざけて横目で言うと、谷崎が言った。


「春姫のおかげで、また腹を抱えて笑っているオレがいる」


え……。


谷崎の優しくて真っ直ぐな瞳。


そして、私にこう言ったんだ。



「真面目な話だ。黙って聞けよ。ーーー春姫とあの店で偶然再会した時、オレはドキドキしている自分に気づいた。おまえにもう一度会えて、ホントに嬉しかったんだ。一緒に働くスタッフは、おまえだって思った。おまえがいいと思った。おまえ以外考えられなかった。春姫と一緒にいたいーーー。そう思ったんだ」


かぁぁぁ。


私の顔がみるみる赤くなっていく。


そ、そんなこと、私の目の前で言わないでくれよっ。


嬉しいのと恥ずかしいのとでぶっ倒れそうだ。


私が思わずぎゅっと下を向いていると、谷崎が言った。



「春姫。楓のこと、まだ気になってるか?」


「え……?」


ドキンと胸が鳴った。


「ーーーまぁ、そりゃあ気にならないって言ったらウソになるか。そのことで、春姫に不安な想いもさせちまったもんな。でもな、春姫。これだけは信じてほしい。今オレが一緒にいたいのは。一緒にいたいのはーーー。こうしてオレの前で笑ってくれる、おまえだ」


ーーーどうしよう。


嬉し過ぎて、なにも言葉が出ないよ。


「改めて、クリスマスプロポーズだ。今すぐじゃなくていい。春姫がいいと思える時が来るまで、オレはずっと待っている。だからその時がきたら。オレと、結婚して下さいーーー」


ぶわ。


溢れる涙で視界がボヤけた。



「は、は、はいっ。よ、よよ……。よろしくお願いしますっ!!」



グシャグシャの泣き顔の私を。


笑顔の谷崎がヘッドロックで抱きしめた。





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