第41話 クリスマスイブの飛び蹴り逮捕劇
「ーーーーーそっかぁ。蘭太郎と仲直りできたか」
ここは、大通りにあるパフェが美味しくて有名なカフェ屋さん。
私と谷崎はこの店の窓際の席で、人気No.1の特大プリンパフェを2人でつつきながら食べているところ。
このパフェのプリンがね、濃厚なかぼちゃプリンになっててめちゃくちゃ美味しいの。
「うん。あー。なんか、ホントにハッピークリスマスってカンジ」
「よかったな」
「うん」
にっこりほほ笑む谷崎に、私もうなずいた。
「さ、プリンたーべよ……って。あああ!かぼちゃプリンがない!!」
私が再びスプーンを構えていざ食べようと意気込んでいたのに、なんとメインのかぼちゃプリンがキレイになくなっているではないかっ。
「ちょーっと!なんでかぼちゃプリン全部食べるの⁉︎ゆっくり味わいながらちょっとずつ食べようと思ってとっといたのにーーーっ」
キーーー!
「なんだよ。んなもん、ちまちま食ってるのが悪いんだよ。オレは豪快に食う主義だからよ」
しらっと笑いながらパフェをつつく谷崎。
この男……ワイルドな風貌してるくせに、甘いモノが大好きって。
ギャップあり過ぎだし!
「なによーっ」
こうなったら、こうだ!
バクバクバク。
私は、色とりどりの艶やかで美味しそうなフルーツ達を次から次へと一気に口へ運んだ。
「ああっ!おまえ、フルーツ全部食うなよっ。しかも、オレの大好きなメロンまで!」
「ふふん。ちまちま食ってんのが悪いんだよ。あー。美味しい」
んべー。
「……このやろっ」
と、突然谷崎が私の脇腹めがけてチョップしてきやがったんだ。
そりゃ、こちょばしいったらなくてさ。
「ぎゃーはははは!!」
オシャレで落ち着いた店内に響き渡る、私と谷崎の笑い声。
「は……」
ハタと気がつくと、周りからの冷たい視線。
私と谷崎、2人で顔を合わせて思わず笑いをこらえて涙目になっちゃったよ。
そんな美味しいパフェを楽しく(?)いただいたあと、私達は映画館に向かって通りを歩いていた。
「ーーーああ、パフェ美味しかったね。昼ご飯に食べたあのドリアも美味しかった。今度はあのチョコレートパフェも食べてみたいなー。でも、やっぱりもう1回かぼちゃプリンかなぁー」
ホント美味しかったぁー。
満腹だぁー。
私が大満足でにこにこしながら歩いていると、アイツがふっと笑った。
「なに?」
「いや。パフェ食って喜んでるからさ。なんか可愛くて」
ドキ。
カ、カワイイ。
私の胸が大きく鳴った。
谷崎ってば、突然なにを言い出すんだか。
自分の顔がちょっと赤くなってるのがわかって、私は恥ずかしくなって下を向いてしまった。
すると。
谷崎がすっと私の手をつかんで、自分のジャンパーの左ポケットに入れたんだ。
ドキッ。
か、か、顔が熱いっ。
なんか恥ずかしい。
どうしよう、心臓がドキドキいってるよ。
ちろ。
おそるおそる谷崎の顔を見上げる。
すると、優しい瞳で谷崎がこう言った。
「春姫。この辺だったよな。オレとおまえが初めて出会った場所」
「え?」
谷崎の言葉に、私は辺りを見回す。
「あ……そうだ。この辺だ。ここで……」
「おまえは盗人3人組に、素晴らしい飛び蹴りをお見まいしてやったんだよな」
カラカラと笑う谷崎。
「うるさいなぁっ」
なにさ、せっかくちょっとロマンチックな雰囲気になってドキドキしてたのに。
ぷぅっとふてくされると、谷崎がふと立ち止まったんだ。
そして、私を見てこう言ったんだ。
「おまえみたいな女、ちょっといねーよな。だから惚れたんだけどさ」
ドキンーーー。
空手三段、剣道二段、特技は飛び蹴り。
小さい頃からおてんばで、男っぽくて、だけどホントは寂しがりやで泣き虫。
そんな私を、ありのままの私を。
好きだと言ってくれた谷崎。
そしてそんな谷崎を、ありのままのアイツを。
好きな私ーーーー。
不思議……。
今では、楓さんを忘れることはないと言ったアイツの言葉さえ、優しく穏やかに受け止められる。
むしろ、そんな風に真っ直ぐで正直なアイツが私は好きだ。
そんな私達は、この場所で出会ったんだよね。
あの日、私と蘭太郎がお見合いの前日の気晴らしに街に繰り出していなかったら。
私と谷崎は出会っていなかったかもしれない。
考えてみれば、あのお見合い話のおかげでいろんなことがあって、そして私と谷崎の〝今〟があるんだ。
そう考えると。
ある意味、あのお見合い話には感謝……なのかな?
プププと笑っていたその時だった。
「キャーーーーーーー!」
後ろの方から、女の人の叫び声が聞こえてきたんだ。
「ひったくりっ!だ、だ、誰かーーーーーっ!!」
「ひったくりっ⁉︎」
私と谷崎は驚いて顔を見合わせた。
その瞬間。
どんっ。
私と谷崎の間を強引にすり抜ける1人の男。
アイツかっ⁉︎
「誰かーっ!あの男を捕まえてーーーー!」
後ろからの女の人の叫び声に、とっさにアイコンタクトを取る私と谷崎。
そして。
「行くぞ、春姫っ」
「おうっ!!」
私と谷崎は息を吸って駆け出した。
「うぉらぁぁーーーっ。待てーーーっ」
同時に重なる私達の声。
あれ。
でも今……私達デートしてるんじゃ……。
ダッシュで犯人を追いかけながらも、ハタと疑問に思う私。
今日ってクリスマスイブだよね?
デートだよね?
でもこれって……ちょっと……。
いや、ちょっとどころか。
全くロマンチックじゃないんですけどっ!
と、思いつつも。
「でぇぇぇーーーーい!!」
私は犯人の背中に思いっ切り飛び蹴りをかましてやった。
「うげっ」
バタッと倒れ込む犯人。
その隙に、私はヤツの手から盗んだハンドバッグを奪い返した。
見ると、40代後半か50代前半くらいのおっさんだ。
谷崎がしゃがみ込んで、犯人の顔を覗き込みながら言った。
「おい、おっさん。ひったくりはよくねーよ」
集まった人だかりの中から、よろよろと被害者の女の人が出てきた。
「お姉さん、バッグ取り返しましたよ」
私が笑顔でバッグを渡すと、その女の人がガシッと私の手を握ってきた。
「あ、ありがとうっ!ホントにありがとう!!今日、ハワイに住んでいる彼に会いに行くことになっていて。その飛行機のチケットが……チケットが、この中に入っていたのぉぉぉ」
ええっ⁉︎
女の人がおいおいと泣き崩れた。
そっか……今日はクリスマスイブだから。
いつもは会えない、遠く離れている恋人に会いに行くことになってたんだ……。
「お姉さん、よかったね」
私はしゃがみ込んで、お姉さんの背中を優しくなでた。
その横で谷崎が満足そうにほほ笑んでいた。
それからすぐに、騒ぎを聞きつけた警察官がやってきて犯人はあっけなく御用となった。
「ーーーーーよかったねぇ。これであの人も無事ハワイにいる恋人に会いに行けるね」
映画館のロビーで、私は谷崎に言った。
お姉さんのホッとした気持ちが私にも痛いほど伝わったよ。
ホントによかったぁ。
「ああ。またもや素晴らしい逮捕劇だったな」
笑ってる谷崎。
……そう言いながら、ホントは内心ちょっぴり呆れてるんではないだろうか。
あまりの私のおてんばっぷりに……。
私が隣に座っている谷崎をちろ…っと見ると、谷崎がイタズラっぽい笑顔で言った。
「ますます惚れ直したよ。あの飛び蹴りに」
飛び蹴り……。
私はじと目で谷崎を見る。
「そりゃ、どうもっ。でも……ちょっと派手にやり過ぎたかな。今日、クリスマスデートだったのに……」
ちょっと苦笑いしながら、ポリポリほっぺたをかいていたら。
突然、谷崎がその手をつかんだんだ。
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