第21話 迫力テレフォン
ガヤガヤーーーーーー。
ここはとある居酒屋。
賑わってる店内。
私達は、小上がりの個室で初のご対面を果たした。
「どーも。ユリです。初めまして。って言っても、今日ちらっとお店の前で谷崎さんのこと見かけたんですけど」
嬉しそうにウキウキしながら挨拶するユリ。
「ホント?オレ全然気気づかなかったな。よろしく、ユリちゃん。これからも春姫のことよろしくな」
谷崎がそう言いながら、隣に座っている私の頭をポンポン叩いた。
おまえは私の保護者か?なんて思っていたら。
「ゴッホン」
向かいに座っていた蘭太郎が、なにやら険しい顔で咳払いをした。
そして、蘭太郎にしてはなんだか強気な態度で谷崎挨拶をし出した。
「どーも。香山蘭太郎です。春姫ちゃんがいつもお世話になっています」
おいおい、蘭太郎まで私の保護者かよ。
「キミが春姫の幼なじみの蘭太郎くん?なるほど。いい男だ。こりゃひと目惚れもされるわけだ」
谷崎が蘭太郎を見て感心している。
「みんな腹減ってるだろ。好きなもん頼んで。オレのおごりだから」
アイツがポケットからタバコとライターを取り出しながら笑顔で言う。
「ホントですかぁ?わーい」
ユリがさっそく嬉しそうにメニューを開く。
タバコの煙をふぅーと吐く谷崎。
そんな谷崎の姿をなぜだかじーっと見ている蘭太郎。
なんか蘭太郎の目がいつもと違ってヤケに真剣なんですけど。
すると、谷崎がそんな蘭太郎の視線にふと気がついた。
「どうかした?」
「あ、い、いえっ。なにも……」
慌てて視線を蘭太郎。
そんな中、店員が注文を取りにやってきた。
ユリに任せて注文してもらってる時、私はアイツに切り出した。
「店長、さっそくお願いしたいんだけど……」
「おう、そうだったな。ちゃちゃっとケリつけて、あとはゆっくり飯でも食うか」
「お、お願いします……」
蘭太郎がペコッと頭を下げた。
うわぁ、なんか緊張してきた。
「そのマザコン野郎の番号教えて」
谷崎が、ポケットから自分のケータイを取り出した。
私が着信履歴からマザコン男の番号を探してアイツに見せる。
「了解」
そう言って、なんのためらいもなくマザコン男の番号を押し出す谷崎。
にわかにピンと張り詰めた空気が漂うこの部屋。
私の心臓はドキドキ鳴っていた。
そしてーーーー。
「もしもし」
谷崎の口から低い声が漏れた。
つ、繋がったーーーーーっ。
フリだけど。
一応私は谷崎の彼女。って設定なんだよね。
なんだか妙に恥ずかしい。
そして、なんかちょっとスリリング。
私達3人はゴクリとツバを飲む。
タバコを吸いながら、アイツがマザコン男に切り出した。
「諏訪勇雄ってのはおまえか。ちょっと
ドキ。
オ、オレの女ーーーー。
演技とわかっていながら、谷崎の自然な言い回しに私はとてつもなく恥ずかしくなってしまった。
「ああ?春姫だよ。鳥越春姫っ。なに?おめ、ボソボソなに言ってるか聞こえねーんだよ」
電話の向こうで、小さな声でモジモジおどおどハッキリしない様子でモゴモゴしゃべってるマザコン男の様子が目に浮かぶ。
そんなマザコン男に、谷崎も本気でちょっとイラついている気配。
少々……いや、かなり圧のあるアイツの話っぷり。
前に私に元ヤンか?って訊いてきたけど……元ヤンはおまえじゃないのか?谷崎。
こりゃ、マザコン男じゃなくても誰だってビビるわ。
そんな谷崎を、ユリはうっとりしたように見てるし、その隣で蘭太郎はなぜかカチンコチンに固まってるし。
やれやれ。
そんな中、アイツがラストスパートをかけてマザコン男に向かってキッパリとこう言ったんだ。
「悪いけどな。おまえがどんだけ春姫を好きになっても、春姫はその気ねーからよ。だから諦めろ。二度と春姫に近づくな。もし近づいたら、そん時はただじゃおかねーぞ」
貫禄あるアイツの声。
ちょっとちょっと。
なにもそこまでおっかなく言わなくても……。
ビビる蘭太郎は、もはや氷のように固まっている。
「それとーーーー」
アイツが付け足した。
「まりあとかいうおまえの妹にも言っとけ。金輪際、オレの弟の前に現れるなって。こっちは相当迷惑してんだよ。オレ、しつこいヤツが嫌いでよ。今度蘭太郎の前に顔出したら。おまえら兄妹そろってあの世行きだから覚悟しとけよ」
お、弟っ?いつの間にそんな設定に?
しかも『あの世行き』って。
この電話の向こうでビビりまくって青ざめている哀れなマザコン男の姿が、手に取るようにわかるよ。
それを思うとちょっとだけ気の毒かも……。
そして、プツッと電話を切ったアイツは途端にニカッと笑った。
「まぁ、こんなもんだろ。しっかし、アイツかなりのビビりだな。おまえにも聞かせてやりたかったよ」
そう言いながら笑う谷崎。
「店長ぉー。ちょっとやり過ぎじゃない?なにもあそこまで言わなくても……。もしかして、店長こそ元ヤン?もしくは族のボスとか」
私がじと目で言うと。
「ちげーよ。芝居だよ、芝居。ま、あれくらい言っときゃもう大丈夫だろ」
「ど、どうも……。ありがとうございます」
蘭太郎がタジタジしながらお礼を言った。
「いや、お安い御用だよ」
谷崎が蘭太郎にウィンクした。
そんな谷崎にユリが嬉しそうに手を叩く。
「谷崎さん、カッコイイ!!これでもう、マザコン男も春姫のこと諦めるだろうし、妹もさすがに現れないでしょ。蘭ちゃん、明日からまた安心して仕事に行けるじゃん。よかったね!」
まぁ、とりあえずこれで一件落着ってカンジかな。
少々手荒だった気はするが……まぁ、いっか。
私もちょっとホッとして、なんだか急にお腹が空いてきた。
「店長、とりあえずありがとう。助かったよ。蘭太郎、ホントよかったね!もう会社に名指しで電話かかってきたり、外で待ち伏せされたりしないで済むよ。今日のはホントすごかったからねー。あー。ホッとしたらお腹減った。お腹減った。食べよう、食べようっ」
こうして、無事マザコン男と妹まりあへの最後通告?の電話も終わり。
このことを祝しつつ、お疲れの乾杯をしてみんなでご飯を食べたんだ。
お腹もいっぱいになったし、車を運転しない私と蘭太郎は少々お酒もいただき、ちょっとだけほろ酔いになったしで、そろそろお開きの雰囲気になってきた頃。
口数少なかった蘭太郎が、突然ゴトンとッと音を立ててお酒の入ったグラスをテーブルに置いたんだ。
「どしたの?蘭太郎。怖い顔しちゃって」
私が顔を覗き込んでも、真っ直ぐグラスを見つめたままの蘭太郎。
そして、突然こんなことを言い出したんだ。
「谷崎さんっ。この際だから最初にハッキリ言っておきます。僕は、春姫ちゃんのことが好きです!!」
うぐっ。
私は食べていたポテトを思わず喉に詰まらせそうになってむせてしまった。
ゴホッ、ゴホッ。
「春姫、大丈夫?はい、水っ」
私はユリから水を受け取ると、それを一気に飲み干した。
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