第15話 驚きの人物現る!!
「ありがとうございました。またお待ちしてます!」
私が笑顔で言うと、女性のお客さんもニコッと笑顔で応えてくれた。
販売の仕事やってるとさ、こういう時間がやっぱりすごく嬉しいよね。
私はルンルン気分で雑貨達をキレイに並べ直した。
この店で働き出してから早4週間ーーーー。
店の雰囲気にも仕事のリズムにもだいぶ慣れてきた私は、やりがいを感じながら楽しく雑貨屋で働く日々を過ごしていた。
初めてのお給料もちゃんともらい、再びアパートでの気楽なひとり暮らしも始まっていいカンジ。
店長の谷崎は、相変わらず忙しく外を飛び回っていてなかなか店にはいないけど、その間店を任されている私は、接客はもちろんのこと、店の中をカワイくディスプレイしたり、見やすく手に取りやすいように陳列や配置も考えたり、カワイイPOP(ポップ)を作成して、商品の説明や値段もお客さんにわかりやすいようにしてみたり。
いろいろ工夫してがんばってるんだ。
おかげで若者を中心に日に日にお客が増えてきてるしだいで、私も谷崎も大喜びだよ。
なんかね、こんな風に『素敵なお店になれるように』ってがんばれることがホントに楽しくて嬉しいんだよね。
ここは、夕方になると学校帰りの女子高生もけっこう来てくれたりして、店内もなかなか賑やかになるの。
なんにせよ、谷崎が仕入れてくる雑貨やインテリア家具なんかがとにかくセンスのいいものばかりだから。
場所さえ認知されれば、お客さんもどんどん増えると思うんだ。
今もお昼休みのOLさん風の人とかがけっこうお店に来てくれて、なかなか賑わってるよ。
そんなカンジで、楽しくこの店で働いている最近の私。
あのマザコン男からの突然の告白のことも完全に忘れたわけではなかったけど。
その後、マザコン男からの電話もかかってこないし。
『まぁ、かかってきたからって別に関係ないか。無視無視』と言った具合で、このことも徐々に私の中では過去のことになりつつあったの。
だけど、ところがどっこい。
この『マザコン男からの突然の告白事件』は、すんなり終わってはくれなかったんだ。
それどころか。
これがまたえらくとんでもない騒動に発展していくことになるとは。
その時の私は、全く知るよしもなかったんだ。
そう、あの日。
この店に、あの女が現れるまでは!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今日は土曜日。
そして夕方。
普段は仕事の休憩や仕事帰りに来てくれるOLさんとか、放課後に来てくれる女子高生などのお客さんが比較的多いこの店。
土曜はまだちょっと空いてるカンジ。
雑貨達もキレイに並べ直し、ガラスのショーケース磨きに取りかかっていたその時。
カラン、カラン。
来客を知らせるドアの鐘が鳴った。
「いらっしゃいませーーーー」
私が手を止めて入り口の方を振り向くと。
「春姫ちゃぁーーーーん」
そこには、スーツ姿の蘭太郎がニコニコと手を振りながら立っていたんだ。
「蘭太郎っ?」
「へっへー。来ちゃった。ずっと来てみたかったんだけど、日曜日春姫ちゃんお休みでしょ?平日は仕事で行けないし……。でも、今日は久しぶりに早く上がれたから仕事帰りにそのまま寄ってみたんだ」
「そっかぁ。ありがと、蘭太郎。今日は割と暇だからゆっくりしてってよ」
「うん。それにしても、春姫ちゃんの言ってたとおりカワイイお店だね。すっごいオシャレ」
蘭太郎が、嬉しそうに店内をぐるぐる見回す。
「最近少しずつお客さんも増えてきてるんだ。月曜から金曜までOLさんや女子高生のお客さんとかけっこう来てくれるの」
「ああ。この辺、近くに会社や学校あるもんね。仕事帰りや学校帰りのお客さん
「でも、このお店ならきっともっと人気出てくるよ。名前もカワイくてオシャレだし」
蘭太郎が大きくうなずいた。
「だと嬉しいよねー」
「……ところで。その……いないの?例の大男」
蘭太郎がちょっと小声になりながら、辺りをキョロキョロ見る。
「ああ、いないよ。いろいろ忙しくて店にいないことの方が多いんだ。だから、普段もほとんどひとり」
「そうなんだ……。でも、突然帰ってきたりしない……?いや、ホントはその大男のこと見てみたいんだけど。でも、いきなりだとちょっと焦るし……」
蘭太郎がひとりブツブツつぶやいている。
「谷崎はたぶんまだ帰って来ないよ。今日は遅くなるって言ってたから」
「そっか……。春姫ちゃん、大男に変なことされたりしてないっ?」
蘭太郎が心配そうに私にずいっと近寄る。
「してないよー。全然大丈夫だって」
「ならいいけど……。あ、そうだ!アイツは?ほら、春姫ちゃんがお見合いしたマザコン男!この前、電話でいきなり春姫ちゃんに告白してきたじゃんっ。その後どうなったのっ?」
「ああ、それね。別にどうもこうもないってカンジ。あれ以来電話もかかってこないし。かかってきたとしても全然関係ないし」
私がしらーっと答えると。
「ホント……?でも、彼かなりイケメンなんだよね……。まさか意表をついてつき合ったりなんてことは……」
「あるわけないでしょっ。ジョーダンやめてよ。誰があんなマザコン男とっ」
「そうだよね。ああ、安心した。最近、僕も春姫ちゃんも忙しくてあんまり連絡取ってなかったから。いろいろ気になってたんだ」
「あのマザコン男のことはもう終わった話。無視、無視」
私がヒラヒラと手を振ると。
「そうだよね。春姫ちゃんがそんなヤツを相手にするわけないもんね。ところで春姫ちゃん、今夜久しぶりに僕の家で一緒にご飯でも食べない?ユリさんも誘ってさ。この前、実家からビールいっぱいもらってきたんだ」
蘭太郎が嬉しそうに言った。
「いいねーっ。そうしよ、そうしよ!ユリにもあと電話してみるよ。ねぇ、なにする?なにする?」
「うーん。お好み焼きとかはどう?」
「ああ、いいねぇー」
「それとか、ガラッと変わってグツグツ系でしゃぶしゃぶとかお鍋とか!」
「それもいい!ああ、お腹減ってきたぁ」
お腹鳴りそうになりながら、蘭太郎と今夜のご飯の話で盛り上がっていたその時だった。
カラン、カランーーーーーー。
店のドアが開いて、ひとりの可愛らしい女の人が入ってきたんだ。
「あ、いらっしゃいませー」
私が笑顔で言うと。
その女の人は、なぜかレジに立っている私の顔をじっと見つめてくるではないか。
え?なに?
そして、突然ズカズカとこちらに向かって歩いてきたかと思うと、どーんと私の前に立ちはだかったんだ。
思わずそばにいた蘭太郎と顔を見合わせて、目をパチクリ。
なに?この人……。
私がキョトンとしていると、その女の人が口を開いたんだ。
「ーーーあなたが、鳥越春姫さんですか?」
「え」
可愛らしい顔なのに、にこりともせずにその女の人は私の顔をじっと見ている。
「そうですけど……」
っていうか、誰?
「あのぉ。どちら様でしょうか……」
私がおそるおそる聞くと、彼女はこう言ったんだ。
「わたくし、
「…………………」
数秒の沈黙のあと。
「え、ええっ⁉︎」
私は驚きのあまり思わず大声を上げてしまった。
あのマザコン男の………妹ぉぉぉっ⁉︎
なんで?どういうことっ⁉︎
「春姫ちゃんどうしたの?」
固まっている私の耳元で、蘭太郎が小声で囁いた。
どうもこうも!
私は動揺する気持ちを抑えながら、蘭太郎に素早くこしょっと耳打ちした。
「蘭太郎っ。この人、マザコン男の妹だってっ」
「………え、ええっ⁉︎マザ……」
「バカッ!しっ」
私は慌てて蘭太郎の口をふさいだ。
そんな私達の様子を見ていた彼女が、ちょっと怪訝そうに言う。
「なにか?」
「あ、いえいえ。なんでも……」
っつーか。
『なにか?』って、そりゃこっちのセリフだよっ。
と、内心思いつつも一応ニコニコして見せる私。
すると、彼女が真剣な顔で私の目の前までずいっと近寄ってきたんだ。
げ。
あとずさる私。
「春姫さん」
「は、はい?」
「今日は、折り入ってお願いがあってまいりました」
な、なんだよ。
「……な、なんでしょう」
私と蘭太郎がゴクリとツバを飲み込んで、彼女の言葉を待っていると。
バンッ!!
彼女が突然カウンターのテーブルに勢いよく身を乗り出してきたではないか。
そして、ビックリ仰天のとんでもないひと言をぶっ放したんだ。
「春姫さん!お兄ちゃんと結婚してあげて下さい!」
え。
「えええーーーーーーっ⁉︎」
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