第12話 カフェバーでの出来事
「えーーーーつ⁉︎春姫ちゃん、あの大男とまた会ったのっ⁉︎」
ここは、とあるカフェバー。
夕方、蘭太郎に『仕事が決まった!』と報告の電話をしたら、それはそれは喜んでくれてさ。
お祝いに美味しいお酒とご飯をご馳走してくれるってことになって、このお店にやってきたんだ。
蘭太郎に電話した時、あの店で働くことが決まった直後で私は興奮冷めやらぬの状態で。
すぐでもにこのビックリ仰天な出来事を詳しく聞かせたかったんだけど、蘭太郎がまだ仕事中で忙しかったから、話はご飯の時にゆっくりとーーーってことになってさ。
でもって、店に着いて乾杯して早々、私はまずあの大男と偶然再会したことを蘭太郎に話したんだ。
「ーーーーーねっ?すごい偶然だと思わない?世の中、こんなことがホントにあるんだねぇー」
未だ興奮状態が続いている私を前に。
「ねぇ、どういうことっ?なんでなんで?どういういきさつでその大男に会ったのっ?大男ってどんなヤツなのっ?春姫ちゃんっ」
蘭太郎がテーブルから身を乗り出してきた。
「待って待って。落ち着いて蘭太郎。今順番に話すから。とりあえず続きを聞いて。ここからがすごいんだから!」
ホントに今考えてもすごい確率の話だよなぁ。
偶然に偶然が重なったっていうかさぁ。
「で、どういう経緯で再会したのかって話なんだけど。実はね、そのきっかけとなった最初の偶然は子犬だったの!」
「子犬?」
「そうっ。私がブラブラ
「うん。それで?」
「そしたら、いつの間にか普段あんまり足を踏み入れないような中小路に来ちゃって。で、ふと見るとその小犬もいなくなっててさー。私も戻るかぁーと思ったその時よ!偶然あの店を見つけたの!」
「店?」
「そう!おそらく雑貨屋だと思われるすっごくカワイイお店。しかも、まだ新しくできたばっかりってカンジでさ。せっかくこんなカワイイ店を見つけたんだから、中に入ってみようとわたしはドアに近づいたわけよ。そしたら、なんと……!」
「そしたらなんと……?」
「なんと、ドアに『アルバイト募集』という張り紙ががしてあるじゃないのっ。なかなか求人のない雑貨屋!既に経験のある雑貨屋!私の大好きな雑貨屋!ーーーののアルバイト募集!!これはやるしかないっ。そう思って勢いよくそのドアを開けたのっ。そしたら……」
私は、そこまで一気に話すとグラスビールをグビッとひと口飲んだ。
「……そしたらっ?」
蘭太郎が、ちょっと眉をしかめながら更にずいっと身を乗り出してきた。
「そしたらなんとっ!その店の奥から出てきた人物が、アイツーーーー。あの大男だったのよ!!」
「え」
「お店もね、やっぱり雑貨屋さんで。オシャレですっごいカワイイの!いやぁ、まさか偶然見つけた素敵な店の店主がまさかあの大男だったなんて。ホントに驚き桃の木リンゴの木。世の中、こんな偶然あるんだねー。と、いうわけで。これが大男と奇跡の再会までの経緯」
数秒の沈黙。
そして、蘭太郎の目がみるみるまん丸に見開き始めた。
「……春姫ちゃん。仕事が決まったって……もしかして、その雑貨屋なの……?」
「そういうこと!」
答える私の声も弾む。
「……ちょっと待って。その雑貨屋で大男と再会して。その大男は店の店主……」」
「うんっ。店長でオーナー。アイツが出した店だから」
「……ということは。つまり春姫ちゃんは、その大男とその雑貨屋でこれから毎日一緒に働く……ってことっ2人きりで」
「うん。そういうこと。スタッフは1人しか雇わないみたい。いやぁ、ホントにラッキーだったよぉ。まさか、履歴書も面接もなしですんなり仕事が決まっちゃうなんて。しかも、私の大好きな販売!大好きな雑貨屋!ホントいろんな偶然に感謝だなっ」
私がウキウキ気分でビールを飲んでいると、蘭太郎がドンッとテーブルを叩いたんだ。
「ダメ!春姫ちゃんっ。僕、反対!」
突然の勢いある蘭太郎の言葉に、私はあっけにとられてしまった。
「……ビックリした。蘭太郎ってばなにを言い出すの?っていうか、反対ってなによ」
「わ、わかんないけどっ。なんかイヤだっ。僕、春姫ちゃんとその大男が一緒に働くの、すごくイヤだ!危ないっ。やめた方がいいよ、春姫ちゃんっ」
蘭太郎ってば、そう言いながら私の手をガシッと握ってきたの。
「ちょっとなに言ってんの?危ないって……蘭太郎はあの大男が危険なヤツとでも言いたいわけ?」
「そうだよっ。そんな狭い空間で見ず知らずの男と2人きりでいるなんてっ……。きっとソイツは危険なヤツだ!なんかそんな気がするんだもんっ」
はぁー?
もぉ、わけわかんないですけど、蘭太郎のヤツ。
「あのねー。あの大男……っていうか。アイツにも一応ちゃんと名前があって……。一応っていうのも変か。まぁ、とにかく名前があって。〝
「谷崎……。高校の時、同じクラスに谷崎ってヤツがいたけど、女タラシで有名でろくなヤツじゃなかったよ。中学の時にも谷崎ってヤツがいたけど、女の子にちょっかいばっかかけて泣かしてる悪いヤツだったし。谷崎って名前のヤツはみんな危険なんだよ」
「いや、あの……」
「春姫ちゃんも、その谷崎って大男に気に入られちゃったんだよっ。もしくは……春姫ちゃんの方がその大男を好きになっちゃったとか⁉︎その惚れた弱みにつけこまれて……ひ、ひどい目に遭わされるかもっ。危ないよっ。春姫ちゃん!」
蘭太郎が身を乗り出して、私の肩をガクガクと揺さぶった。
「もぉぉ。アホなことばっか言ってないでよねっ。しかも今、日本中の谷崎って名前の人達を敵に回したね。だいいち、好きだ惚れただとか。どっからそんな話が出てくるわけ?
私は、やっとこプー太郎生活から脱出できて、おまけにその仕事が自分の好きな雑貨屋で。心底嬉しくて純粋に喜んでるのに。蘭太郎はそんな私を祝ってくれるどころか批判するわけ?」
ぷんっ。
「……ご、ごめん。なんだか春姫ちゃんのことが心配になっちゃって、つい……。なんか2人の再会がちょっと運命的……っていうかなんていうか。ある意味ホントにちょっと奇跡っていうか。だから、なんか……〝恋〟とか始まっちゃったりしたらどうしよう……ってーーーー」
「始まらないから。恋なんて」
「……ホントに?その大男のこと、好きになったりしてない?」
「してないよ。するわけなじやん。そりゃ、犯人逮捕に協力してくれた男気あるいいヤツだとは思うけど、それだけだし」
「大男も春姫ちゃんに言い寄ってきたりしてない……」
「するわけないでしょ、仕事なんだから」
「……そっか。ならよかった」
蘭太郎がホッとしたような表情で息をついた。
「っていうか、蘭太郎。この先、もしも私に彼氏ができそうになってもそんな風に反対するわけ?」
「えっ。春姫ちゃんに、か、か、彼氏っ……。も、もしかしたら……大男がいつか、春姫ちゃんの彼氏に……⁉︎」
蘭太郎が途端に目をうるうるさせ出した。
「だーかーら。大男がどうのこうのじゃなくて。私がもし他の誰かとつき合うことになったら……って話。蘭太郎のことは大好きだよ?だけど、それと恋とは別なわけよ。別の大好き……っていうか。だからね、私だっていつかは彼氏だってほしいなぁとか思うの。いつまでもひとり身っていうのはやっぱり寂しいしさ」
「……そっか……。そうなんだ。やっぱり、僕じゃダメなんだね………。わかったよ……。僕は、春姫ちゃんの弟分でもいいっ。春姫ちゃんが幸せなら……。それでいいっ。でも、相手にもよるよっ?春姫ちゃんを泣かせる悪いヤツだったら、僕が春姫ちゃんをお嫁さんにもらうからねっ」
「……プ」
蘭太郎のうるうる涙目の真剣な表情を見ていたら、なんだかカワイくてておかしくて。
思わず吹き出してしまった。
「あっ。なんで笑うの?春姫ちゃん!僕は真剣だよ」
「わかってるって。ごめんごめん。でも、蘭太郎ってば一生懸命でなんかカワイイんだもん。でも、私のことそんな風に想ってくれて。そしてホントに心配してくれて。すごく嬉しいよ。ありがとう、蘭太郎」
私が笑顔で言うと、蘭太郎もやっとにこっと笑った。
「正直ちょっといろいろ心配だけど……。とりあえず大好きな雑貨屋さんの仕事が決まってよかったね、春姫ちゃん」
「うんっ。ホントにラッキーだったよ。久々に仕事復活!明日からがんばって働くよ」
ガッツポーズ。
「うん、がんばってね。くれぐれも大男にだけは気をつけて……」
「はいはい」
いやぁ、でもホントによかったよ。
前の仕事がクビになって、お金なくなって、お見合いさせられて、おまけに次の仕事も決まらずで。
この先どうなることかと思ったけど、無事新しい仕事も決まったし。
これで、結婚しろしろとせかされることもなくなるだろうし。
万々歳ってカンジだわ。
しっかし、人生初のお見合い。
今思うとホントに貴重な経験をさせてもらったわ。
今だから笑い話にできるけど……。
よくよく考えると、私も相当派手に破談劇を繰り広げたもんだよね(笑)
それにしても、あのマザコン男。
大の男が26にもなって『ママぁー』とか言って。
おおお、ないないないっ。
今思い出しても引くわ。
ま、もう関係ないし。
忘れよう忘れよう。
と、その〝マザコン男とのお見合いの件〟も、すっかり過去のことになりつつある私なのであったが……。
ピロロロー♪
バッグの中のケータイが鳴った。
「僕、ちょっとトイレ行ってくるね」
「あ、うん」
蘭太郎が席を立ってひとりになった私は、バッグの中からケータイを取り出した。
画面を見ると、知らない番号からの着信になっている。
「?」
誰だろう。
誰か番号でも変わったのかな。
そう思いながら、私は電話に出たんだ。
「もしもし?」
『……………』
ん?
「もしもーし」
再び私が言うと。
『……あ、あの……』
電話の向こうから、もごもごした男の声。
『あ、あの……。鳥越春姫さん、ですか……?』
オドオドしたような小さな声。
「え、そうですけど……。どちらさまですか?」
なに?誰なの?コイツ。
私は、怪訝に電話越しの相手に聞いた。
すると、電話の相手はこう言ったんだ。
『あ、あの……
「……はぁ?」
スワぁ?誰、それ。
私にそんな知り合いいないけど。
「えっと。ちょっとわからないんですけど。どちらのスワさんですか?」
私が半ばイラつき気味に言うと。
『あ、お、覚えてないですか?僕です……。あの時の、諏訪です。諏訪勇雄……』
スワ、イサオぉ?
あの時ーーー?
……あれ?ちょっと待てよ。
どっかで聞いたことがあるような……。
『あ、あの……。この前、お見合いの席でご一緒させていただいた……』
「え」
お見合い……?
私の頭の中で、あのお見合いの風景が録画の早送りのようにキュルルルッと高速で流れ。
お見合い写真のあのキリッとしたマザコン男の顔が一気にズームアップされた。
「あーーーーーーーっ」
コイツ、あの時のマザコン男⁉︎
っていうか、なんで私の番号知ってんの?なんで電話してきてんのっ?
『あ、思い出してもらえました……?よかったぁ』
よかねーよっ。
「あの、なんのご用件でしょうか。それよりも、なんで私のケータイ番号知ってるんですか?」
『え?あ、ああ……。お見合いする前に、事前に春姫さんのお母様からプロフィールというものをいただいてまして……。そこに春姫さんのケータイ番号も……』
プロフィール⁉︎
ちょっと、そんなの全然聞いてないんですけどっ。
なに娘に黙ってそんなもん作って渡してんのよっ。
勝手にケータイ番号まで書いちゃってっ。
あの母親ー!
私がケータイを握りしめてキーッとなってるところに、トイレに行っていた蘭太郎が戻ってきた。
「ーーーーーーで。ご用件は」
かなりのイライラモードの私。
そんな私を不思議そうに見ながら席に着く蘭太郎。
『あ、あの……。この前は……突然帰ってしまって、ホントにすみませんでした……』
はぁーーー?
この男、今更、そして今頃なにを言いだすわけ?
しかも、そうしてもらうようにわざとこっちがそう仕向けたんですけど。
「いえ、全然」
もうとっくに終わってることでしょうが。
マザコン男のあんたと私は、もう一切関係ないの。
破談して終わったんです!
「それでは、失礼します」
そう言って、私が電話お切ろうとしたら。
『あっ。待って下さいっ……』
マザコン男の声。
「まだなにか?」
ぶっきらぼうに言うと。
ソイツは、なんとも信じられないとんでもないことを言い出したんだ。
『あのっ……。もう一度、僕と会っていただけませんかっ?』
へ?
『ぼ、ぼ、僕っ。あの日からあなたのことがずっと忘れられないんですっ!あ、あなたのことがす……好きになってしまいましたっ!!』
「ーーーーーーーーー」
え。
えええーーーーーーーーーーっ⁉︎
な、なんじゃそりゃーーーーーーっ!!
あまりの驚きの突然の告白に、私は勢いよく後ろにのけぞって。
グラッ。
イスごとひっくり返りそうになってしまったのである。
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