第11話 奇跡の再会
それから数週間ーーーーーー。
相変わらず仕事も決まらずプー太郎の私は、仕事探しにもほとほと嫌気がさして、部屋でダラダラとうなだれていた。
あーーーーーあ。
ベッドの上でゴロゴロ。
ガチャッ。
「春姫っ」
んあー?
頭の上で母の声。
「もぉー。ノックくらいしてよー。で、なに?」
「あんた。いつまでブラブラやってるつもり?早くなんか仕事決めなさいっ」
「決めなさいって言ったって。決まらないんだもん。しょうがないじゃーん。それに知ってた?年齢制限あるとこやたら多くて、26でギリギリアウトばっか」
「だったら早く結婚でもしなさいっ」
出た出た。
さすがにお見合い話は持ち出さなくなったけど、相変わらず結婚しろしろうるさくてさー。
彼氏もいないのにどうやって結婚すんじゃい。
あーあ。
気晴らしに買い物……は、お金なくてできないから。
ウィンドウショッピングにでも出かけるか。
よしっ。
それから1時間後。
私はばっちりオシャレをして街中に出かけて行った。
こういう時こそ、好きな服を着て好きな靴履いてオシャレしよう。
それだけで元気が出るってもんよ。
大通りのファッションビルのディスプレイも、どこもかしこも秋めいている。
もう10月だもんなぁ。
あと少しすれば街もクリスマスムード一色になるね。
わーい、クリスマス大好き。
そんなちょっとワクワクした気分で、ショーウィンドウに飾られた洋服やバッグを眺めながらてくてく歩く。
ああ、冬に向けて欲しいものがいっぱいだなぁ。
コートでしょ、ブーツでしょ、マフラーでしょ、カワイイ帽子も手袋も他にもいろいろ。
……やっぱなんか仕事しなきゃ。
現実に引き戻されて、一瞬どよんとしかけたその時。
「キャン、キャン」
ん?犬?
鳴き声がして辺りをキョロキョロと見回すと。
どこから来たのか、なんともカワイらしい子犬が私の足元らへんをくるくる回っているではないかっ。
ちょーっと!カワイイーーー!
でも、こんな街中に子犬がいるなんて珍しいなぁ。
首輪はしてないみたい。
野良犬かなぁ。
道行く人々も『カワイイ、カワイイ』と振り返る。
あまりのカワイさに、私も思わずその子犬の後ろをトコトコついて歩き出した。
どこに行くのかなぁ、お母さん犬はどこにいるのかなぁ、迷子なのかなぁ。
それにしても、カワイイ。
トコトコーーーーーー。
子犬について歩いているうちに、気がつくと私は大通りからちょっと外れたひと気の少ない中小路に来ていた。
あれ、この子についてきたらこんな所に来ちゃった。
そして、キョロキョロ見渡してるうちに、子犬の姿が見えなくなっていたの。
あれ?どこ行ったの?
ちょっとよそ見をしてるうちに、細い通路でも通ってどこか奥の方へ行ってしまったらしい。
いなくなっちゃった……。
カワイかったのになー。
私も戻ろうっと。
なんとなく残念な気持ちになりながら、くるっと向きを変えようとしたその時。
ん?
私の視界に小さなお店のような……ある建物が映ったんだ。
なに?お店?
近づいてみた。
うわぁ……ちょっとちょっと!なんかすっごくカワイイお店じゃない?
ひと昔前のアメリカンテイストっぽい風合いで、入り口付近には英語やポップなイラストの描かれたカワイイ看板やら置き物やらが飾ってある。
こんな所にこんなお店があったんだぁ。
いや、あったっていうよりは、なんか新しくできたってカンジ?
建物がまだキレイだし。
〝Open〟のネオンに誘われて。
私はフラフラと歩み寄った。
なんのお店かな。
なんか雑貨屋さん、っぽいよね?
よーし、せっかく見つけたカワイイお店だから。
思い切って中に入ってみよう!
と、ドアに手をかけた私は、そこになにか白い張り紙らしきものがあるのに気がついた。
【アルバイト募集…詳しくはスタッフまで】
「え」
私はそのドアにピタッとくっついて、その張り紙をもう一度見直した。
アルバイト、募集……?
ウソーーーーーー!
私の頭の上に、ぱぁっと花が咲いた。
こ、これは……まさしく私のためにあるような張り紙じゃないっ?
見たカンジ、ここは絶対カワイイ輸入雑貨のお店だよっ。
バイト経験のある雑貨屋さん。
私が元々大好きな雑貨屋さん。
これは行くしかないでしょ!
アルバイト募集。
はい!やるやる!私やるっ。
私、ここでアルバイトしますっ!!
決めた!!
バンッ。
私は勢いよくドアを開け、思いっ切り元気な声で叫んだ。
「すみませんっ。アルバイト希望の者ですっ!!」
ドアを開けた瞬間。
ぱぁぁぁ。
またもや私の頭の上で花が咲いた。
ほらー!やっぱり思ったとおり。
すっごくカワイイお店じゃーーーん。
そこには、色とりどりのカワイイ雑貨達が賑やかにひしめき合うラブリーなハッピーワールドが広がっていたんだ。
キャーキャーーー!
私の大好きなこのカンジ!
私、絶対ここで働くっ!働きたいっ!!
「すみませーんっ」
高鳴る胸を押さえながら再び大きな声で呼びかけると。
「はーい」
奥の方から、低い男の人の声が聞こえてきたんだ。
へぇー、男のスタッフさんなんだ。
店長かな。
声からすると、まだ若いカンジだけど。
ガサゴソ、ガサゴソ。
奥の方から人が出てくる気配。
私は店内を眺めながら待っていた。
いやぁ、あのカワイイ子犬のおかげでこんないいとこ見つけちゃったよー。
あの子犬に感謝だな。
もうすっかりこの店で働くことが決まったかのように、私の心はウキウキだった。
「すみません。お待たせしちゃってー。なんせオープンしたてで、奥の方はまだごちゃごちゃで……」
そう笑いながら出てきた男の人。
「いいえ」
私は笑顔でくるっと振り向いた。
と、その瞬間。
「あーーーーーーっ」
長身の男の人が、私を見るなり驚いたように声を上げたんだ。
「え?」
なに?
その男の人を見て……。
「あーーーーーーっ」
思わず私も叫んでしまった。
だってそこには……。
「大男っ⁉︎」
「飛び蹴り女っ!!」
私とヤツの声が重なった。
な、なんでっ?っていうか……どういうこと⁉︎
顔はハッキリ覚えていなかったけど、私はヤツの顔を見るなりすぐにピンときたんだ。
あの時感じた雰囲気と同じ。
目立つ長身に、見覚えのあるそのキリッとした目元と、あごヒゲーーーーー。
店の奥から出てきたのは、間違いなくあの大男だったんだ。
もう二度と会うことなんてないと思ってたのに……。
あまりのビックリさ加減に、私はポカンと口を開けたままヤツの顔を見上げていた。
こんな偶然、あるんだぁ……ーーーーー。
「ビックリしたぁ。おまえ、あの時の飛び蹴り女だよな?」
大男もかなり驚いた様子で、目を丸くしながら私に言った。
「うん……。私もビックリ……。っていうか。その〝飛び蹴り女〟ってやめてくれます?」
なんかすごくひどい女みたいじゃん?
「いや、だって実際すげー飛び蹴りかましてたから。っつーか。オレだってその〝大男〟ってやつも……なに?」
「だって、背が高いから」
「………………」
「………………」
数秒の沈黙。
そして、突然大男がクックックと笑い出したんだ。
「な、なに?」
「いやぁ。こんな偶然あんだなーと思って。それと、思い出したらおかしくて。おまえ、あの時ホントすごかったよな。男相手に飛び蹴りかましてぶっ倒しちまうんだもんな。オレ、おまえみたいな女初めて見たよ」
おかしそうに笑いながら、レジ横にあった赤い丸イスに座った。
「だって……。私、ああいうとんでもないヤツら見たら黙っていられなくて。あ、そうだ。私、あんたにお礼言いたいと思ってたの。だからまた会えてよかった。もう会うこともないんだろうなぁって思ってたから……。でも、まさかこんな所で会うなんて。ホントにかなりビックリだけど」
「だよな。オレもビックリだよ。っていうか。お礼?」
「うん。犯人逮捕に協力してくれたからーーーー。私の叫び声に応えてくれて、アイツら取り押さえてくれたでしょ。みんな聞こえてても知らんぷりだったから……。嬉しかったの。ありがとう、ございます」
おそらく、私より3つくらいは年上だと思われるその大男に向かって、私は軽くペコッと頭を下げた。
すると、大男がいきなり笑い出したんだ。
「おまえ、刑事みたいだな。女デカ?」
爆笑している大男。
「な、なによっ。人が真剣にお礼言ってるのにっ」
ちょっとムッときてふんと横を向くと。
「ごめんごめん。いや、おまえ女なのに勇気あるよ。えらいよ。オレも、ああいうヤツらは許せないタチだから。おまえのおかげで捕まえられてよかったよ」
優しい笑顔で私に言った。
やっぱりコイツ、なかなかいいヤツじゃん。
「ところで……。あんたがこの店の店長?」
「ああ、まぁな。あ、おまえアルバイト希望だっけ」
「うん!あ……はい」
「名前は?」
「鳥越春姫、です。鳥を越えるに春の姫って字です」
「春姫、か。ーーーーーよし。何人か希望者来てたんだけど。おまえに決めようっ」
「えっ?……ホント⁉︎」
「おまえのその正義感の強さが気に入った。明日からおまえはこの店のスタッフだ」
「ーーーーーーーー」
ウソ……。
今まで全く仕事が決まらなかった私が、こんなにあっさり新しい仕事決まっちゃったの?
履歴書も面接もなしで?
しかも、大好きなカワイイ雑貨達のいるこの店で?
しかも、店長は……あの大男?
どうしよう。
なんかとてつもなくワクワクしてきちゃった。
なんか私、めちゃめちゃ嬉しいっ!
「や、やったぁーーーーーーーっ!」
思わず私は飛び上がって喜んでしまった。
こうして。
私は、あのカワイイ子犬に導かれるように偶然この店を見つけ。
そして。
もう二度と会うこともないと思っていたあの大男と、奇跡的な再会を果たしたんだーーーー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます