第7話 謎のお見合い相手
「へぇー。お見合いするって言うから、どんなブサ男かと思ったら。けっこういい男じゃーん。これなら、私お見合いしてもいいかもぉ」
小学校から仲良しのユリが、ジュースを飲みながら見合い写真を見て喜んでいる。
今日はユリの仕事が休みで、久々にウチに遊びにきたんだ。
で、私の部屋でくつろいでるところなんだけど。
「こんないい男でおまけにお金持ちなら、そんな悪巧みしてないで真剣にお見合いしてみたら?案外気が合ったりするかもよ」
ユリってば、すっかりそのお見合い相手の男が気に入っちゃって。
私の企みを知っていながら、えらくすすめてくるんだもん。
「ユリまでなに言い出すんだよ」
「だって。春姫のおばさんじゃないけどさ。こんないい条件揃った人、なかなかいるもんじゃないって。私もさぁ、そろそろ結婚したいなぁーとか思ってるけど。翔太の今の稼ぎじゃ2人でやっていくにはけっこうギリギリだし。
まぁ、結婚してもたぶん共働きにはなるだろうけど。私としては、家のこともあるから、せめてパートくらいにしたいとか思うし。子どもも早くほしいし。いろいろ悩みどころだよー」
「へぇー。ユリ、結婚とかそのあとのこととか、いろいろ考えてるんだ」
「そりゃあ、もう26だもん。結婚したっておかしくない時期でしょ」
そんな時期に、男っ気ゼロの私って……。
「まぁ、そこそこ楽しんできなよ。お見合いなんて、なかなかする機会ないし。でも、あんまり派手にやり過ぎないようにね」
ユリが帰ったあと。
私は、初めてお見合い写真にまともに目を向けてみた。
ユリまで絶賛してたけど、そんなにいい男なのか?
パラ。
表紙をめくってマジマジと見てみる。
「…………………」
まぁ、確かにいい男ではあるけど……。
でもさ。
女の26歳と男の26歳って、ちょっと違うよね?
なんていうか、男の26歳は『まだ26歳』、女の26歳は『もう26歳』ってカンジで。
〝まだ〟と〝もう〟の違いがあるような気がする。
だから、男の26歳は、たぶんまだけっこう若い方に入るんじゃない?今の時代なんて。
そんな20代半ばの男が、親のすすめとかにせよ、こんなバッチリ写真撮ってお見合いなんてしたがるもんなのか?
コイツ、頭がよくて金も持ってるらしいけど……実はなんかとんでもない裏の顔があったりして!
このお見合いをすることで、なにか大企業の裏組織が働き、コイツにとっても企業にとってもかなりの大メリットがあるとか……。
じゃなかったら、フツウ26のイケメンがわざわざお見合いなんてするか?
いや、しない。
絶対しないよ。
この男、きっとなにか裏があるに違いない。
もしかして、新手の結婚詐欺とかっ?
「………………」
いや、庶民のウチ相手に、大企業の裏組織が働くわけもないし、詐欺されるほど資金があるわけでもないな。
でも、なんか秘密がある気がしてならないなぁ。
どっちににしても、なんだかこの男がえらい悪人に見えてきた。
まぁ、悪人だろうが善人だろうが、私には関係ないけどさ。
どうせ、そのお見合い破談させてやるんだから。
けっ。
それから数週間後。
ついに、お見合いの日程が決まった。
9月12日、日曜日。
午後1時から。
ロイヤルプリンスホテル7階ーーーーーー。
そして、淡々と時間は流れ。
あっという間にお見合い前日の日となった。
明日はいよいよお見合い。
そんな中。
私は気晴らしに、仕事が休みの蘭太郎とウィンドウショッピングをしに街に繰り出していた。
「春姫ちゃぁん。ホントに明日お見合いするの?」
隣をピョコピョコ歩く蘭太郎が、私の顔を覗き込んでくる。
「まぁね。でも、早いとこ勝負つけてとっとと帰って来る予定だから」
「勝負……。なんか戦いみたいだね」
「当然よっ。気合い入れて戦闘モードでいかなきゃ。だって、いかにして相手に嫌われるか。そこんとこにかかってんだから」
私はブンッと左手のこぶしを振り上げながら、思いっ切り右手のクレープにかぶりついた。
お母さんには『明日は、おしとやかに礼儀正しくお行儀よくね』って耳にタコができそうなくらい言われたからね。
なのでしっかりやらせていただきます!
その真逆のことを!!
へへへんだ。
「戦闘モードなら大丈夫だとは思うけど……。春姫ちゃん。絶対絶対、相手の男の人を好きになったりしないよねっ?結婚なんてしないよねっ?僕、イヤだよ」
「するわけないでしょ?っていうか、そもそもがなんか怪しいと思わない?顔もよくて、お金も持ってておまけにまだ若いだなんて。そんな完璧ちっくな男がわざわざお見合いだなんて。絶対なんか裏があるに違いないわ」
「裏?」
「じゃなかったら、お見合いなんかしなくたってすぐに彼女とかできそうなもんじゃない。もしかすると……お金持ちっていうのも実はウソで、ホントに結婚詐欺だったりして……」
「け、結婚詐欺っ?」
蘭太郎の甲高い声に、周りの人達が振り向く。
「もしかすると。って話よ。だって、うま過ぎると思わない?あんなイケメンで高学歴で、高収入だなんて」
「春姫ちゃん。ずいぶんその人のことカッコイイみたく言ってるけど。もしかして、そのお見合い相手の男の顔……割とタイプなの?」
「タイプっていうか。まぁ、一般的にカッコイイ部類には入るんじゃない?」
「ああっ。春姫ちゃん、けっこう好みなんだ!僕やっぱり心配だぁ!」
「別に好みじゃないもん。一般的にって言ってるでしょ」
そんな会話をしながら、賑やかな通りを歩いていると。
なにやら、道端の隅で3人組の男達に囲まれているおばあさんの姿が目に入った。
ん?なんだ?
私はちょっと立ち止まり、そそくさと横にそれた。
「どうしたの?春姫ちゃん」
「蘭太郎、アイツらなにしてると思う?」
私は蘭太郎の腕を引っ張って、すぐ近くの店の入り口の影からその様子を伺った。
「え?ああ……。なんか、あのおばあさんに道を尋ねてるみたいだよ」
3人組のうちの1人がおばあさんと一緒にそこの角がどうだのなんだのと身振り手振りで話し込んでいる。
でも、なんか怪しい……。
残りの2人がやけにソワソワしてるんだよ。
1人は、やたらと目だけちらちら動かして周りの様子を伺っていて。
もう1人は、さっきからずっと下を見てるんだ。
いや、正確に言うと斜め下。
おばあさんの持っている、口の開いた手提げバッグの辺りだ。
「……アイツら。やる気だな」
「え?なにを?」
「ほら、見てみなよ。みんなバラバラの行動を取ってるじゃん?ホントに道を尋ねるなら、3人ともおばあさんの話を聞くハズなのに。それに、大体にしてこの辺の道がわからないっツラじゃないじゃん」
「どういうこと?」
「財布だよ。3人グルになって、あのおばあさんのバッグから財布を抜き取ろうとしてるんだよ」
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