第1話 ケンカ

「早苗…。」

「ん??」

「実は私、明日から入院だから、もう学校には行けないの…。」

「そっか…。お見舞い行くね!」

「ありがとう…。もしもさ、私が死んだら………みんなにさよならって言っておいてね…。」

「彩芽?何言ってるの?希望を持ちなよ!!」

その時の彩芽の目は、どこを向いているか分からなかった。


それからだった。

「もしも」

は、

彩芽の口癖になっていた。


「もしも…」

「言わないで!!」


そして、それを止めるのが、

私の仕事になっていた。


1ヶ月後

「あと、4ヶ月だね…。1ヶ月って短過ぎるよ…。私だって…っ…ほんとは…まだ…っ生きたい…よ……。」

「彩芽…。彩芽はきっと助かるよ!希望を持って!」

沈黙が続く。

「……早苗に何が分かるの?」

「え?」

「早苗は、私みたいになったことがないから言えるんでしょ!?」

「わ…私は、彩芽に生きていてほしいから…」

「私はもう余命宣告された人間なの。死ぬしかないの。ごめん、今日は出てって。」

私は、ゆっくりと病室からでた。

立ち去ろうとしたその時、彩芽のと思われる、嗚咽が聞こえてきた。

「本当に辛いのは彩芽だって知ってるのに…。」

独りでに涙が出た。でも、それは彩芽を喪う悲しさからではなく、彩芽の辛さを知ったからだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る