第26話『スク水ランニング』


ジジ・ラモローゾ:027


『スク水ランニング』  






 こんなのもあるぞ。




 テレビがどこも武漢ウィルスばかりやってるんで、コタツで居ねむりしてしまった。


 すると、耳元で声がして薄目を開けたら、おづねがパソコンの画面を指さしている。


「え、なに……」


 画面に焦点が合ったとたんに飛んでしまった……。




 ミーーンミンミンミンミン ミーーンミンミンミンミン ミーーンミンミンミンミン




 蝉の合唱がうるさいプールサイドだ。


 コンクリが焼けて、学校指定のサンダルの底を通してカイロのような温もりが伝わる。


 バッシャー!


 先生がバケツで水を撒いてプールサイドを冷やしている。うん、裸足だと火傷しそうだもんね。


 数回水をまいたところで、スク水の女子たちが更衣室から出てくる。


『これは、ジージが生徒だった頃の高校だなあ』


 たしかに野暮ったいくらいに又ぐりの浅い旧式のスク水だ。


「並べー! 点呼とるぞー!」


『あ、女の先生だったんだ』


 先生はショートカットのTシャツなので、細身の男先生かと思ったら、声は女性だ。


「志村! 門田! おらんのかあ!」


 先生が呼ばわると『すみませーん』と声がして、志村と門田が小動物のように更衣室から出てきた。


 他の女子たちが、気の毒そうに遅刻の二人と先生の顔を窺う。


『ここからが面白い♪』


「遅い! グラウンド一周!」


「「エエーーー!?」」


 志村と門田がムンクの『叫び』みたいな顔になり、他の女生徒は「うわあ~」と同情と期待の混ざった声をあげた。


「じゃ、準備運動! 二人は、さっさと走ってこい!」


「「ハ、ハイ(;'∀')」」


 


 なんと二人はスク水のまま、エッチラオッチラとグラウンドを走り始めた。


 二人が走り出すと、校舎の窓から男子生徒たちが顔を出して囃し立て、女子たちは「すけべ!」「えっち!」と面白がって軽蔑、授業を始めたばかりの先生たちが「こらー!」と叱ったり、出席簿で男子たちをどついたりしている。


『あ、あれ、ジージだ!』


 三階の窓からカーテンに隠れるようにして顔をのぞかせているのは、日本人離れした若き日のジージだ。


『なかなか楽しいキャンパスライフだったようだのう』


『こ、こういうジージは軽蔑!』


『良いではないか、おづねは、こういうの好きだぞ』


『おづねもエッチだ!』


『まあ、笑っておいてやれ。スク水ランニングは、この年が最後だったんだからな』


 再びプールに戻ると、ランニングを終えた二人も交えて、キャーキャーと水泳の授業が始まっていた。




 コンコン コンコン




 窓ガラスを打つ音がしたかと思うと、幻視から覚めて、コタツの前に戻ってきた。


 あれ?


 窓の方を見ると、おづねと同じくらいの背丈の女の子がガラスを叩いている。


「お、チカコではないか?」


 おづねが気づくと、女の子は激おこぷんぷん丸の顔になった……。 


 

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