第21話『赤いフリース』


ジジ・ラモローゾ:021


『赤いフリース』  






 チラチラと、閉じた目蓋を通しても分かる木漏れ日で気が付いた。




 右の方が灌木の斜面になっていて、ワラワラと茂った葉っぱの隙間から光が漏れている。


 斜め上から落ちてきたんだろう、所どころ灌木の枝が折れて、下草も乱れている。少し首を巡らすと自転車のハンドルが草原からニョキッと覗いている。


 急な斜面は高さが三メートルほどもあって、自力では登れそうにない。


 幸い体はなんともなく、悲惨な状況の割には落ち着いている。


 自転車をあきらめたら登れるかなあ……いやいや、結論を出すのは早い。周囲を探って、自転車を押しても上がれるところを探そう。斜面の上に道があるんだろうから。


 ヨッコイショっと……。


 自転車を立ち上げて目視点検……だいじょうぶ。葉っぱや蔓が絡んでいるけど壊れてるところはない……と思ったら、後ろのタイヤがパンクしている。


 これは、斜面の上まで引き上げても、家までは押して帰らなきゃならない。


 仕方がない、取りあえず上がれるところを探そう。


 カチャリ


 自転車のスタンドを立ててる。立てておかないと草叢に隠れて見失う。


 草叢自体緩い斜面になっているので、取りあえずは上りの方角に向かう。上って行けば上の道路に出られるところが見つかるだろう。


 ああ、ダメだ。


 二十メートルほども行くと、草叢の斜面はストンと落ちて谷間になっている。


 仕方が無いので、回れ右して下りの方角に進む。


 あれ?


 二十メートルは戻ったはずなのに自転車が見当たらない。


 また倒れたのかなあ……?


 草叢をかき分けるんだけど、見当たらない。


 え? え? ええ!?


 ちょっと焦って探すんだけど、見当たらない。場所間違えた? こけてる?


 ピョンピョンしながら探ってみるけど見当たらない。


 ちょ、ヤバいよ。


 キョロキョロしてみる。ようやく『だいじょうぶか、あたし(;゜Д゜)』という気になってくる。


 とにかく道を探そう。


 やみくもに歩いては迷いそうなので、フリースを脱いで斜面の木の枝に掛ける。赤いから、ちょっと離れても目印になる。


 しっかりとフリースを確認して、エイっと気合いを入れる。少し歩いて振り返る。うん、ちゃんとフリースは見えている。


 


 ビュン パシッ!




 何かが鼻先を掠めて、斜面の木に当った。


 え?


 ビュン パシ!


 今度は見えた。目の前を石が飛んで、斜面の木に当った。


 ビュン パシ!


 また飛んできて、さっきよりも、高いところの木に当った。




 あ?




 石が当たった木の枝にロープが掛かっているのが見えた。


 ロープは斜面の上に伸びている。えっさえっさと近寄ってロープを引っ張ってみる。


 グングン!


 引っぱってみると確かな手ごたえがあって、ロープを頼りに上って行けば元の道路に戻れそうな気がする。


「よし!」


 声を出して、ロープを手繰りながら上がる。


 よいしょ よいしょ よいしょ………やったー!


 十回ほどたどると、パーっと視界が開けて元の道路に上がることができた!


 それに、目の前には、ちゃんと自転車が!


 訳わかんないけど、とにかく助かった。


 もう一時も、ここには居たくないので、自転車にまたがる……が、パンクしている。


 だよね、パンクしてたんだ。


 仕方なく、コロコロと自転車を転がす。


 


 あ!?




 三叉路まで戻って気が付いた。フリースを置いてきたままだ!


 でも、取りに戻る気力無し。




 三十分近くかかって家に戻る。


 幸いお祖母ちゃんは庭いじりをしていて「おかえりぃ」と声が聞こえてきただけ。


 フリースは無いし、あちこち泥とかついてるし。見られたらヤバイ。


 あーーーー疲れたあ!


 ベッドにひっくり返って、そんで、ビックリした。




 壁のハンガーに、あのフリースが掛かっている。


 

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