第20話『今度はコイントスに逆らって』


ジジ・ラモローゾ:020


『今度はコイントスに逆らって』  





 ここらへんから面白くなる。


 アニメとかラノベだったらね。



 お隣りの小林さんともお喋りしたりクッキーをもらったり、ペペロンチーノこさえたら、匂いが伝わって、小林さんも作ったり。


 行きつけのパン屋さんでも、お祖母ちゃんの忘れ物がきっかけで、試作の胡桃パンをいただいたり。


 あとは放っておいても、箱庭的日常系のドラマが始まりそう。



 だけど、わたしのコミニケーション能力では、ドラマのようにはいかない。



 ここ三日ほど、タイミングが合わずに小林さんとは言葉を交わしていない。用事もないのにドアをノックする根性はないんだ。


 パン屋さんにも行ってるけど、相変わらずお客さんが多くって、個人的な話なんかできないでいる。


 図書館は、あいかわらず休館だしね。



 コイントス。



 表が出たら外に出る。裏が出たら家でアニメでも観る。


 えい!


 今度は手から零れることも無かった。抑えた右手をどけると……裏だ。


 でもね、わたしは出かけることにした。ちょっとね、運に逆らってみた。


 自転車で五分も行くと、チョー田舎。


 住宅なんか無くなって、農家がチラホラ見える。道は三叉路になって、右に『ーー街道』の石柱。左に行けば農家のチラホラに向かって畑中の道が伸びている。


 ちょっとだけ自転車を停めて悩む。


 農家のチラホラに行ってもいいんだけど、全然面識がない。


 でも、こういうのって克服しないと、ずっと苦手なままになりそう。



 ププー



 後ろでクラクション。


 慌てて自転車ごと脇に避ける。


 二トンぐらいのトラックが追い越していく。運転席も荷台にも一見して外人ぽい男の人たちが乗っていて、追い越しざまに、わたしに一瞥をくれる。中には白い歯を見せて、ピースサインする人も……服装は薄緑の作業着……農家で働いてる外人さんたちだ、わたしを追い越して、なんだか笑い声がする……おちょくられた?ひょっとしたら不法就労? ネットで聞きかじった情報が、頭の中を駆け巡ってドキドキする。


 とっさに地面を蹴って三叉路を右に進む。


 進むと、微妙な上り坂でペダルが重くなる。


 道らしい地面が見えていたのは、ほんの五十メートルほどで、じきに獣道のような心細さになる。


 足元に気をとられていると、両脇は雑木林のようになって見通しが悪くなる。


 道は、草叢とも雑木林の下草ともつかないものになってきて、ちょっと見通しが苦しい。


 ガクン


 一瞬ペダルが軽くなったかと思うと……自転車ごと路肩を踏み外してしまった!




 グワーーーー!




 女の子らしくない唸り声をあげて、転がり落ちていくところまでは……意識があった。


 





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る