第21話 女神の河は慈悲深く
二つの死体が川に浮かんでいる。
片方の死体は五人の男を殺し十人の女を強姦して殺した凶悪な男だ。自らの殺した女の恋人に殺され、川に浮かべられた。
もう片方の死体は貧しいながらも心優しく、80年間常に街の清掃をしていた男だ。男は日課の清掃の途中でこけておぼれ死んでしまった。
二つの死体はどんどん水を吸っていく。
水を吸った死体の肉はぶよぶよになっていき、川に住む大きな魚たちがその肉をつつく。さらに、鳥も、ワニも、死体の肉を食べ始める。
大きな魚や鳥やワニが食い荒らした肉は、細かく小さな肉片となったり、死体の断念をささくれさせる。そういったところを小魚や虫たちが食べていく。
死体はどんどん肉を食われて粋、ついには内臓がでろんと飛び出す。
内臓は栄養がたっぷりだから、途端に巨大なワニがかっさらう。腸は美味い、それは我々もまた牛や豚の腸をホルモンとありがたがることからもわかるだろう。
さて、この二つの死体は多くの生き物に食べられていき、肉が散らばり混ざり合う。隣り合って浮かんでいた二つの死体は徐々に混ざり、残った骨が浮力を生んでいた肉を失ったが故に沈んでいく。
結局、しばらくして二つの死体の骨すら水に沈んだ。
如何なる人生を送ったものであっても等しく包み込む。インド人の信仰を集めるガンジス川は、その名にたがわず慈悲深いのだ。
了
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