第14話 赤子は鎹
赤子が一人、電車で揺られている。
母親に抱っこされ、きょろきょろと横を向いている。
ふっと赤子が横を見ると、見知らぬ人間がこっちをじっと見ている。
睨んでいるわけでもなく、寧ろ微笑んでいるようだ。
赤子は退屈だ。
赤子は足を動かすことなどできない。かろうじて、母親の慈悲の上で出してもらっている手と、回すことができる首だけが、今この空間で赤子の自由になるものだ。
赤子は何となしに、その見知らぬ人間をじっと見てみる。
すると、その見知らぬ人間はにっこりとしてひらひらと手を振ってきた。
赤子としては、この退屈な仲自分に構ってくれる母親以外の存在だ。
「あー、あー」
赤子はそんな見知らぬ人の存在が何ともうれしくなり、にっこりと笑う。
「あらあら、たーくん今日ご機嫌だねー」
母親は、そんな自分のかわいい息子が見知らぬ他人に対して笑顔を振りまいているのを喜ぶ。
人見知りをしない、だれからも可愛がられる子供が得だというのを知っているからだ。
「ばいばい」
そして、見知らぬ人は赤子ににこやかに手を振って降りる。
「はいたーくん、ばいばいねー。本当にありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ」
「あーうー!」
母親は息子に構ってくれた見知らぬ人に礼をいい、見知らぬ人は目が合ったかわいい赤子に癒されながら母親に礼を言い、赤子はなんとなくその場を楽しむ。
子は鎹というのは上手い言葉だ。子は両親の鎹になるが、赤子は社会の鎹になる。
了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます