第13話 「むし」寿司

「今度虫寿司食べに行こうや」

 会社で隣の席の、大阪生まれの梅子ちゃんから唐突にそういわれたのは少しびっくりした。

「へぇ、虫寿司かぁ。おいしいの?」

 私は松本生まれ松本育ち、少しばかり虫の味にはうるさいのである。

「うん、うまいで。冬になるといろんなところで出すんや」

「へー、それはおいしそうね」

 なるほど、京都は水がきれいだからざざ虫がおいしいのかな。そんなことを思いながら、虫寿司を想像する。

「んじゃ今度ウチが関西に帰るあたりに行かへん? 祇園のお店が旨いんや」

「へぇ、祇園で出すんだ」

 祇園で虫を出す。なるほど、祇園にいる舞妓さんも虫寿司を食べるのか。そう考えると、何とも面白い話だ。

 酢飯の上に虫を乗せる。

 ぱくりと食べると、虫の旨味が広がる。

「それじゃあ、ご一緒させていただこうかな」

「よょっしゃ、んじゃええ店教えるで!」

 私は知らなかったのだ。




 この寿司は虫寿司ではなく、蒸し寿司といってちらしずしを蒸したのだということを。




           了

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