第4話 タバコ百害あって一利あり

「タバコはダメだ。副流煙が肺を壊す」

 そんなことをボソッというと、母が私の方を見る。

「いやいや、タバコはあれでも何とも利益があるもんでね」

 不思議なことだ。母はタバコを吸わないのに、いきなりそんなことを言い出した。

「タバコの利益、とは何だい母さん」

 そう聞いてみると、母はぼそりと口を開く。

「昔ね、あんたのひい爺さんがあんたのばあさんとその友達を連れて山に散歩に行ったのよ」

 山に散歩、成程母の出身は度がつく田舎だ。山に散歩に行くという選択肢があるのだろう。

「そこでばあさんの友達の女の子がね、ふーっと茂みの方へがさがさといったのよ」

「食える山ぶどうでも見つけたの?」

 母は首を横に振る。

 どうも本当に何もない状態で茂みの方に行ったらしい。

「んで、それに気が付いた爺さんがね、その子をとっ捕まえてみんなを集めてタバコを吸ったのよ」

「ほう、んでそれが何でタバコの利益の話なの?」

 そうすると、母は肩を竦めて言った。

「狐はタバコが苦手なのよ。狐に騙された子供を、たばこ一本でお祓いしたってわけ」

 なるほど、タバコ一本神主いらず。

 どうやらタバコにはごくまれに利益があるようだ。



          了

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