第3話 雪中の死体
男が死んでいる。
男は縄張りを巡る、部族間の争いに巻き込まれて殺されてしまった男である。
元来、男は勤勉に遊牧を行い、肉を愛し、酒を友とかっくらう時間を何よりも好み、家族思いの父親であった。
しかしながら、男は殺されてしまった。
なんてことはない、即ち遊牧の草を巡る部族の争いに巻き込まれたのだ。
初めは嫌がらせで矢を射かけられていると思っていたが、その矢は明らかに自分を狙っていた。
男は自らの命を守り、家族や友をこの執拗なる狩人から守るために山に登った。山に登れば、この狩人の眼をごまかすことができる。そう思ったのだ。
手持ちの脂を噛みながらハーブを貪り、男は必死に逃げていた。
しかしながら、自分なんかよりもこの狩人は何十倍も狡猾であった。
結局、男は射殺されとどめといわんばかりに後頭部を殴られた。
男は、せめて誰かが自分の死体を見つけて家族のもとへ埋葬してくれと思った。
男は知らない。
彼の死体が発見されるのは、彼が死んでから5000年後。
そして、彼はアイスマンと名付けられ同時代人の誰よりも有名になってしまうのであった。
了
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