第2話 メロスは激怒した

 メロスは激怒した。

 必ず、かの邪知暴虐の飯を除かねばならぬと決意した。

 メロスには文化がわからぬ。メロスは、大阪のおっちゃんである。

 たこ焼きを焼き、お好み焼きを食って暮らしてきた。

 けれども邪悪に対しては、人一倍敏感であった。

 今日未明メロスは新大阪を出発し、名古屋を越え静岡を越え、500キロ離れたこの東京の街にやってきた。

 メロスには父も、母も無い。女房も無い。

 十六の、内気な妹も無い。

 ただ暇をつぶすために、ありったけの金を持って東京に来たのだ。

 メロスは何となしに、天津飯を食べたくなった。あの醤油が効いた餡がかかった、うまい飯を食いたくなって、中華屋に入って注文した。

 しかしながら出てきたのはケチャップの餡がかかった、得体のしれぬもの。

 メロスは激怒した。


「ふざけんな、これは天津飯じゃないやろが!」


 東京の下町の中華料理屋で、赤い天津飯に激怒した男を見た時にそんなことをふと思ったのだ。



          了

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