第1話 土器はドキドキ

 伊達政宗は或る日茶器を落としかけた。

 その茶器は世にも稀な逸品だった。近習は、主君がこの茶器を壊さなかったことに安堵した。ほっと溜息をついたその時である。

「糞がっ!」

 伊達政宗は茶器を石に叩きつけた。

「殿っ!?」

 近習が目を丸くして主君を見る。

「この茶器を落とさなかったことに安堵した自分が憎いわっ!」

 そういいながら伊達政宗は粉々になった茶器を、隻眼でぎっと睨んだ。

 要するに、戦場で臆さなかった自分が茶器程度に肝を冷やしたことが許せなかったらしい。

 何というひねくれものか。

 近習は粉々になった茶器を片付けながら、勿体無いと思うのであった。

 しかしながら、そういったみみっちい心が自分に武功を成さない理由なのかな、などということを近習は思うのであった。

「囚われるも欲、囚われぬのも欲、難しいものよのぉ」

 そんなことを考えている横で、自分の主君は何やらよくわからない理屈で納得していたのであった。

 茶器一つで臆する臆さない、欲があるない、そんな話になるのがどうにもこうにも納得できないのであった。



          了

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