圧倒的な戦力

「じゃあ、ルリ達は?」


「えぇ、無事よ。それは保証するわ」


アイラさんの言葉を聞けて、俺はようやく冷静さを取り戻す。異種族同盟が結成され戦争自体はいつでもできるが、それでも俺はいち早く妹を、そして恋人を救いに行きたかった。

だが、危険がない以上は、無理に行くより心強い仲間がいてくれた方が救出は安全だ。


「それにしても、流石魔王の力ね。人質を利用することができないし。相手から恨みを買うだけなのだから」


「シオンと魔族を敵に回した、帝国には少しばかり同情しちまうな」


ライオネルとドリアーナさんは、この状況でもどこか楽しそうに会話をしている。他の人を見ても、誰一人として不安や恐怖を抱えている表情の人はいなかった。

ここにいる皆が他の国がどれだけ強いかを知ってるからだ。


サウス国には、半神の肩書を持つ俺、父さんに母さん、レオや転移者の翔太。クラスメイトや先生、場合によってはユウリとナズリも参戦してくれるかもしれない。これだけの戦力で国を相手どることはできると思う。そこに国が動けば、軍が動く個々の戦力と数が合わさり、だれが見ても強国と認められるだろう。


アイラさんは言った「力を貸す、シオン君が動かなくても私は動く」と、魔王が動けば魔族の全戦力が動く。アイラさん1人でも最強戦力なのに、娘のローゼさんにリリエルちゃん。さらにアギラードさんもいる。魔族はすべての種族の中で最も個々が強い種族。俺が知らない魔族の強者は山ほどいるだろう。その全てが帝国を狙うと考えたら此処にいる皆が安心するのも納得だ。


個々の強さなら龍人族も忘れてはいけないだろう。俺が関りあるのは、トライドールにセレスさんミハネルさん。あとは関りというほどではないが軍の人達も知っている。見てきた龍人はほとんど全てが洗練された戦士たちだった。数としては決して多くはないが、間違いなく強国だろう。


魔族、龍人が個々の力なら、獣人族は数の力だろう。獣人国ローガリアには10人の隊長と数多くの兵士がいる。もちろん数だけではない。ここにいるライオネルは、特殊な獣人のレオを除けば間違いなく最強の獣人だし。力が半減していたとはいえ、レオを瀕死にまで追い込んだワンもいる。もうこの時点で帝国に対する過剰戦力だろう。


精霊族、エルフは他に比べてしまえば劣っているが、飛びぬけているところはある。精霊族とエルフは、例外を除くすべての種族の中で、最も魔力量が多い種族。数の戦いである戦争において、強力な範囲攻撃魔法を使う精霊族は、脅威の存在でしかない。そして味方の多くを支援し、表で活躍する者は多くないが縁の下の力持ちである。エルフはいてくれるだけで士気が上がる。


この五種族を今回は異種族同盟と呼ぶ。改めて考え直せば、戦争に負ける要素があまり思い浮かばなかった。

だが俺達は帝国のすべてを知っている訳ではない。確実に脅威になるであろう邪神の使い。ルリ、キャロ、シャロ、ナツメを倒したのが1人か複数か...それは後でナツメに聞けばわかるが。それほどの実力者があちらにもいる事は、警戒すべきことだ。




パンッ、パンッ!

ウロノスさんは手を叩き皆を注目させる。


「改めて、ここに集まってもらった国のトップには感謝をする。そして目指すは帝国、おそらくここに来ているという事はある程度の準備も済んでいるのであろう。明日お昼過ぎ、新生ドラグーン国に集めるという事でどうだろうか?」


「俺達ドラグーン国は構わないが、他の国は大丈夫なのか?特に一番遠い獣人国とか」


「あぁ、その点なら問題ない。遠くとの連絡ができる、魔道具を使いドラグーン国に向かうように指示は出してあるからな」


「流石、獣人王ライオネル。その行動力には感服するよ」


「褒めるな褒めるな、龍人の若き王よ。俺が図に乗るだろ」


ライオネルがそう言うと、他の者はクスクスと笑っていた。そしてこの場は一度解散となり各々自国に戻っていった。そして俺も家に帰ろうとした時だった。


「シオン君、ちょっと話があるんだ。家にお邪魔してもいい?」


その場に残ったアイラさんは俺を呼び止め、何やら怪しげな表情で言った。とりあえず断る理由もないので、俺はアイラさんを家に招待する。




「父さん、母さん、帰ってたんだ」


「話はナツメちゃんから聞いたわ」


「シオン、帝国と戦うんだろ?当然僕たちも力を貸すよ。どうやらアイラもその気みたいだしね」


「主、誰の家族に手を出したか教えてあげましょう」


リビングに入れば、真剣な表情の父さんと母さんとレオがいた。みんな家族を傷つけられ握りこぶしに力が入っているのが見える。父さんと母さんにとって、キャロとシャロは実の子供アイラさんと気持ちは一緒なのだろう。


「ありがとう父さん達、詳しいことは後で話すよ。それよりアイラさん話って?」


「シオン君、原初の魔王って知ってる?」


「原初の魔王...詳しいことは知りませんが、少しなら」


知識としては知っている。最初の魔王にして最強の魔王と言われた存在。統率力のない魔族をまとめ上げ、転生者がいなければ、原初の魔王が支配する魔族が人間を滅ぼしていたかもしれない。という昔話。


「原初の魔王は、最強の魔王。その存在に死という概念が存在しなかったらしいわ。だから封印された。いるだけで邪悪なその存在を。封印されるにあたって原初の魔王は5つのパーツに分けられのよ。頭、右腕、左腕、右足、左足。それらのパーツは魔族領土の各地で厳重に守られていたわ。だけど最近何者かがすべてのピースを盗み出したわ。そして一つに集まった場所は帝国」


「まさか、帝国は原初の魔王を復活させる準備が」


「おそらく整っているわ。異種族同盟は間違いなく強い。だけど原初の魔王がいるならそれだけで勝敗がひっくり返る可能性もあるの」


「原初の魔王の相手は俺がします。全力で戦えばもしかしたら...」


「私にとって原初の魔王は先祖。おそらく私じゃ分が悪いわ、シオン君お願いね。できる限りのサポートはするから」


戦争で勝ちを確信している一方で、どこかで不安が俺の中で積もっていく。だがこれは、考えても仕方のないことだった。この後アイラさんは国に戻り、俺は父さん達にこれまでの経緯を話し。本格的に戦争の準備を進めるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

今流行の異世界転生をしたので、異世界で最強を目指す。 @stks

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ