番外編 二丁目に行ったときの話 その2

 こんにちは、nnsです。

 前回の二丁目(に行けなかった)の話からしばらく後の話をしますね。


 今度こそ二丁目の話を。

 まず、前回と同じように三丁目駅で降りたんですね。そして駅構内の地図を見て適切なところから地上に出ます。成長したね。たくさん出口あるって、知ってるんだね。

 そしてそこは「出たらもう二丁目です」と言っても過言じゃないくらいの場所。さすがに辿り着きましたよ。

 ビルに張り付いてる住所のプレートに新宿二丁目と書いてあるのを見て、「遂に来た……!」と思いましたね。


 そして物見遊山という感じで通りを歩きます。でも、二丁目って、その、地味、ですよね……。イメージでは、デッカい看板バーン!!!! レインボーな飾りドゥンドゥンドゥン!!!! な感じだったんですよ。

 実際は小ぢんまりとした店の集合体って感じでしたね。看板も控えめなサイズでぼんやり。一見さんお断りって感じの雰囲気のお店が多いなと思いました。あとゲイ向けっぽい店が多くて、入っていいのか分からないところも多かったですね。


 それでぶらぶらしてると、なんか太い通りに出ました。え? と思って地図を調べると、そこで二丁目終了。

 うちの地元のお祭りの露店の方が長い(?)って思いました。あんな狭い区画が日本で一番有名なゲイのメッカだったなんて。当時はすごく衝撃を受けました。


 で、この日、私はとあるウーマンオンリーイベントってやつにお邪魔するつもりでやってきたんですね。地図とにらめっこしながら歩き回りました。多分30分くらい。うろうろするレズ。


 やっと見つけたお店。店内は結構広かったのに本当に女性しかいませんでした。スタートは23時。もうオール確定のイベントです。あ、いかがわしいイベントじゃないですよ。ノンケでもレズでもなんでもいいから女性だけで飲もうぜ! っていうイベントです。

 しかしここで問題が浮上します。


 そう、私、飲めないんですよね。


 もうその今後の展開を顧みないアクティブさなんなの? って感じですが。だって行ってみたいじゃないですか、そういうイベント……。そもそも他人に話しかけたりするのが得意じゃないので、不向きにもほどがあるんですが、経験としてどうしても行きたかったんですよね。


 どーしよー^^


 って感じでテーブルで喫煙していると、声を掛けられました。「一人で来てるの?」と。うわ優しいーそして嬉しいーって感じです。

「うん!」と元気に返事をすると、「私は彼女と来てるんだーじゃねー」と去って行きました。


 いじめか?


 だけど、そう思ったのも最初だけです。なんか一言かけて去ってくって結構あるんですね。それから何度も似たようなことがありました。これがデフォじゃなかったらショック死しますが。


 飲めないから、調子に乗って頼んだ最初の一杯以外はずっとコーラです。何杯目か分からないコーラをカウンターにもらいに行こうと並んでいると、トランスの人に話しかけられました。トランスというのは、この場合は性自認が男性で、元の体が女性の方ですね。ウーマンオンリーイベントに参加したがらなさそうな気がしますが(私の学生時代の友人に一人それっぽい子が居るんですが、その子は誘ったとしても絶対に来なかったと思います。「俺は男だ!(怒)」って怒られるのがオチですね)、トランスの方にも色々いるってことでしょうね。

 暗い店内にもかかわらず、シルバーのサングラスをかけたあんちゃんは私の肩を叩いて言いました。「君、並んでる?」と。


「うん」

「そっか。じゃあ後ろ並ぼ。楽しんでる?」

「うーん。人に話し掛けるの苦手なんだなぁって今日知った」

「ははは! 適当でいいんだよ、俺が君に話し掛けみたいにね。じゃ、楽しんで!」


 私はカウンターでコーラを受け取りながら、彼の言葉を聞きました。かっけ〜〜〜…………。

 背中をどんと押されて、適当な女の子集団の前に立つ格好になります。兄ちゃんがお膳立てしてくれたんだ、頑張ろう。そう思いました。そして声を発しました。


「あっ、すいません……」


 無能。

 お前もうすぐ帰れ。

 終電なくても歩いて帰れ。


 こいついきなり出て来てなんやねん、みたいな視線を浴びながら、私は自分が座ってた席にすごすごと戻ります。が。誰か知らない人達が座ってる。悲しい。


 結局、私は立って使うタイプのテーブルで過ごすことになりました。喫煙者なので、テーブル必須なんですよね、灰皿さんがいないので。そこでぼんやりしていると、今度はお姉さんに話しかけられました。


「やっほー。一人?」

「うん」

「あたしタチ。ネコ?」

「ううん」

「ばいばーい」


 いやそんな直接的なやりとりある??????????????


 性的過ぎるわ。何それ。そういうもん???


 それから何度かそういうところに行きましたが(一人では行ってないです、友達と。一人はこの時で懲りました)、あそこまで分かりやすい確認をされたのはあれが最初で最後でしたね。

 初対面でタチネコとかそういう話するのはわりとデフォなんですよ。付き合ってからタチ同士でした、なんて具合に発覚するとわりと地獄なので。それってレズ的な意味でホモみたいなものなので(?)。

 でもさ……別にいいじゃん……ちょっと話してよ……。お前、他人に対して友達って概念ないのかよ……でもそれだけ確認して去ってくような人と何を話したらいいか分からんからやっぱいいわ……。


 始発までまだ3時間くらいあったんですが、私は既にしんどさを感じていました。声かけるのも苦手ですが、そもそも声かけたいとも思わないし(マジで何しに行ったんだろうね)。


 そしてしばらくすると、また違う人に声をかけられます。が、今度はちょっと様子が違いました。何にも言わないで、ぴったりと私の横にくっついてきたんです、その子。そっと刺し殺されたらどうしようと思いましたが、不安を口にする前にその子が言いました。


「しっ。振り返らないで」

「……あ、はい」


 スパイものの何かか?????


 だけど、ただならぬ様子なのは間違いないです。白いワンピースの可愛らしい子でした。顔は覚えてません。っていうか暗くてあんまりよく見えません。


「彼女ってことにしてほしい」

「……わ、分かった」


 当時の私、物わかり良過ぎて面白いですね。

 で、話を聞くと、ヤバい人に粘着されてて、1時間くらいずっとつきまとわれてるんだとか。振り返るなって言われたけど、私はこっそり振り返りました。そこには、3秒前まで海外のスラム街にいました、という風貌の熟年女性が佇んでいました。あと、亡霊みたいな目で私のことめっちゃ睨んでました。くっっっっそ怖い。


「もっとちゃんとくっついて。彼女なんだよ」

「あ、うん」

「肩とか抱いて」

「分かった」

「楽しい話して」

「あの人めっちゃ怖いね。すごい睨んでくる」

「楽しい話しろっつったろうが」


 そんなこんなで30分くらいですかね。話をしながらふと左手を見ると、真っ赤なんですよね。お酒を飲んだせいか、日中に仕事で中指を怪我したんですが、そこから大量に流血してました。いやこんな血出る??? ってくらい派手に。

 抱いている肩をちらっと見ると、その子の白い服が赤くなってました。やべーーーーーーーと思いましたが、「バレたら怒られる……」と思った私は愚かにも黙っておく選択をしてしまいます。いやマジで言え。バカ。

 色々と話をしたけど、「これバレたらシバかれるかも」ということで頭がいっぱいだったので、中身は何も覚えてないです。その後、その子の友人が迎えに来て送り届けるということでさよならしたんですが、その子達が店を出て10分くらい緊張してました。だから言えよ。クリーニング代渡せ。知らない女の血が肩にべっとり付いてるとかキショいだろうが。

 そして振り返ると、スラム女(失礼やぞ)が私をずっと見てました。しかも、この女、私がその子と話をしている間に近付いてきたらしく、想像していたよりも近くてビクッってなりました。

 知らない子の服を汚してしまったと気にしながら、やべぇヤツの視線を背中に受けて飲むコーラ。地獄のマグマみてぇな味。


 そして私は悟りました。

 友達や恋人を作ろうとも思ってない人間がこんなとこ来ても面白くない、と。

 そりゃ人間観察は面白いですよ、本当に面白い。だけど、終電そろそろ終わるでーって時間から始発まで、そのためだけに行くってとんでもない気力が要ります。どうしてもやりたい人は友達と行った方がいいです、マジで。


 私はおもむろに移動し、壁に配置された謎のゲーム機に触れました。見た目はキャサリンというゲームのバーに出てくるアレですね。お金払ったか忘れたんですが、多分タダでプレイできたんですよね。

 うん、分かってる、もう二度と来ないにしろ、せめて今回くらいは頑張れよって思うよね。そのときの私も、そう思ってました。ただ、なんか別のことをしたくなっただけです。ずっと気になってた機械がなんなのか確かめたかったんです。だけど、その時点で運命は決まっていました。


「あっ!♥ 上海入ってるじゃん!♥」


 上海っていうのは麻雀の牌を上から消してくパズルゲーですね。私これ好きなんですよ。というかパズルゲー好きなんです。地味なヤツ全般好き。イラストロジックとか。

 なんか、気付いたら始発の時間になってましたね。最初からこうしてれば誰の服も汚さず、ヤベェ奴に目を付けられることもなかったんじゃないかって。


 イベントは終わり、店を締めるから出てけって、最後まで残ってた客は出されます。もうめっっっっっっちゃ久々に見た気がする太陽がやけに綺麗に感じたのを覚えてます。ビルを照らす朝日、BGMは飲み過ぎた馬鹿が道路を吐瀉物で汚す過程の全て。

 いやホントにみんなゲロゲロ吐いてて普通に引きました。そんな中で吐いてないボーイッシュな子(多分普通の人がイメージするよりも男っぽいと思います)が、がしっとうちの肩に腕を回して言いました。


「えへへへへへへへ〜〜〜聞いてくれよ〜〜〜〜〜〜さっきぃ〜〜……そこの、めっっっっっっちゃ可愛い子とぉ〜〜〜〜ベロチューしちゃったぁ〜〜〜〜」


 その日、多分イベント中は色々あったと思うんですが、この瞬間が一番殺意高まりましたね。だけどこれは醜い嫉妬や、いけないぞ。と思って「良かったね」ってその子の肩をぽんぽんしときました。強めに。

 ホントは地団駄踏んで「はっっっっっ!? 自慢っっっっっっ!? 死ねっっっっっっっっっ!?」って言ってやりたかったですが、それをやったら人として終わってしまうと思ったので、口では祝福したんですね。


 私達がそんな感じで話をしていると、またボーイッシュな別の子が、「早く帰ろうぜー」と声を掛けてきました。私はそのベロチュー女の友達だと判断し、まぁ駅を目指すしと思ってそのまま一緒に移動しました。

 解散するときに気付いたんですが、うちら3人、誰も知り合いじゃなかったんですよね(笑) 声をかけてきた人は酔ってて誰が誰とかあんまり分かってない&うちとベロチューはお互いにお互いの知り合いだと思ってたみたいで。



 というわけで、最初っから最後までマジで謎な体験でした。



 たまにいるじゃないですか。っていうか結構な若いレズ達が思ってるんだよ。

 二丁目に行けば……!!! 俺(私)だって……!! みたいな。

 もうさ、それ一種の異世界転生願望とほとんど変わらんから。


 うちも自分でそんなに期待してないつもりだったのに、やっぱり心のどこかでは思ってたみたいで、当時はちょっとショックだった。

 酒って全然力を貸してくれないから。体質にもよるけど。よくお酒の勢いで〜とか言ってる人がいるけどね、あんなもんは半分催眠術みたいなもん。お酒を言い訳にしてやろうって魂胆で、何かをする前に酒を飲みたがる人が一定数いるんじゃないかなって。

 いやそういう人を責める意味で言ったんじゃなくてね。いや肯定もしないけど、今はそこはどうでもいいから置いとくから。

何が言いたいって、簡単に言うと、


【勇気を出して二丁目に行ってお酒飲んだら記憶がなくなってて、起きたら隣には全裸の美女がすやすやしていて!?〜会社に行こうと思ったけどもう遅い(遅刻)〜】


 みたいなことは起こらん。ってこと。


 あのな。


 起こらん。


 うちを見ろ。


 見知らぬ女の洋服汚してスラム擬人化みたいな女に睨み付けられながら夜明けまで上海してんだぞ。



 いやお酒でその手の失敗をやらかすってのはある人はいると思うけどね。

 なんつーの、「そこに行ったら誰かがなんやかんやでいい感じにしてくれる」みたいな。

 そういうのはね、無いよ。楽をしようとするな。いいな。


 私みたいに、人に話し掛けるの苦手だし、積極的に知り合いを増やしたいわけでもない、って人は別の手段考えるのもありですよ。いま、SNSとかありますし。

 もう散々書いた結論がこんななの、悲しすぎるわ。でも事実だから……みんなに、うちと同じような「ここは自分の居場所じゃないということははっきり分かったから帰りたいんだけど始発まで3時間ある」という絶望を味わってほしくないんだ……。

 いや、行きたい子は行ったらいい。でも、自分の面倒を自分で見きれないヤツは行くな。分かったな。周りに迷惑とかじゃなくて、お前の心の守るためなんだ。理解しろ。


 というわけで、今日はこの辺で。

 お疲れ様でした〜。



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