第31話 怪獣大戦争
城壁を突き破ったルルイェの塔は、
それだけでも充分異様な光景だったが、その塔の姿はさらに異様だった。
「……なんか腕が生えてるーー!?」
ちょっと見ない間に、ルルイェの塔に、二本の腕が生えていた。
塔の外壁と同じ、ブロックでできているようだが、邪魔な障害物を殴りつけて破壊している。
そんなルルイェの塔へ、魔王軍のワイバーン部隊が攻撃を仕掛けた。
ワイバーンはドラゴンのような姿をした小型の飛龍だが、背中に人を乗せている。
数は少ないが、一騎だけでも相当に強い。なにせ空を飛んでいるので。
そいつらが数騎、塔の屋上へ攻撃しようとしている。
「屋上にルルたんがいるんだ!」
たぶん、屋上から塔を操っているんだろう。
ワイバーン部隊は、ルルイェ自身を倒すつもりのようだ。
だが、近づこうとするワイバーンは、塔から生えた腕に払い落とされる。
一騎、二騎と叩き落とし、
「あ、捕まえた」
最後の一騎を掴んだと思うと、羽を広げたり裏返したりしている。
「……あいつ、観察してやがる。ワイバーン型ゴーレムの新作を作るつもりだな」
虎の子のワイバーン部隊もあえなく撃退され、地上からでは歩く塔を攻撃する術がなく、魔王軍はお手上げの様子だ。
リーン王国軍は、外の魔王軍に中のクリスタルドラゴンにと忙しく、乱入者の相手までしていられない。
「にしても、なんなんだあの腕」
「あの塔そのものが、巨大なゴーレムだったんですよ」
アイシャさんが言う。
「なるほど、だから動いても崩れなかったのか」
普通にブロックを積み上げただけの塔なら、歩き出した時に崩れるだろう。しかし、ゴーレム化されているため、簡単には壊れないというわけだ。納得。
「しかし、ルルたん、何しに来たんだろう」
「そんなの、決まってるじゃないですか。タケル殿を迎えにきたんですよ」
「いくら食いしん坊のルルたんでも、ハンバーグ食べたいからって街の城壁を壊したりしませんって」
「じゃなくて、タケル殿を大事に思ってるって言ってるんです!」
「またまた~。そんなわけ……」
ないでしょ。
そう続けようとして、言葉を飲む。
本当にそうかもしれないと思える明確な根拠を、俺は一つだけ持っていたから。
しかし、俺がここにいると気づいてないルルイェは、街の中央にある城へ向かって侵攻していく。
その道すがら、どうしても邪魔になるものがあった。
絶賛大暴れ中の、クリスタルドラゴンだ。
「おーい、ルルたーーん、そっち行ったら危ないぞーー!」
「聞こえていませんね。ルルイェ様は、クリスタルドラゴンと戦うおつもりでしょうか……」
クリスタルドラゴンが、接近する塔の存在に気づいた。
敵と見なしたのか、二本の頭をもたげて襲いかかる。
ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!
凄まじい咆哮。
そして、ブレス。
ルルイェの塔は、ドラゴンブレスを浴びながら、それでも歩みを止めず突き進む。
そして、
――ドゴォン!!!!
――ドスッ、ドガッ、バキッ!!!!!!
――ズドォォォォン!!!!!!!!
「おおっ、コンビネーションブロー!」
円柱形の塔は自らを軸に回転しながら、まずは、大ぶりのフック。そこからジャブ、ジャブ、ジャブ、からの大きく振りかぶってアッパーカット!
クリスタルドラゴンが、たまらずのけぞる。
しかし、ダメージはほとんどなさそうだ。
なにせ、ウェイトが違いすぎる。クリスタルドラゴンはルルイェの塔を易々と見下ろすほど大きい。
今度は、クリスタルドラゴンが反撃に出た。
双頭で塔から生えた左右の腕に噛みつき、食いちぎってしまう。
これにはさすがのルルイェも怯んだようで、物理攻撃の手段を奪われ、後退する。
「ああっ、惜しいです。なんかいけそうだったのに!」
「それより、アイシャさん、ちょっと手伝ってもらえませんか?」
「何をです?」
「ルルイェが空けた穴から、今のうちに一般市民を避難させます」
もともとは、外から襲いかかってくる魔王軍に備えて、街の市民は城壁の中で籠城している状態だった。しかし、そのど真ん中から、もっとやばいものが出現し、街にいては、いつあのブレスで焼き殺されるか分からない状態になっている。
ただ、門は固く閉ざされているため、外へは出られない。イルファーレンの守備兵の指揮系統も乱れに乱れ、最早機能しそうになかった。
俺はパニックに陥っている市民に呼びかけた。
「落ち着いてくださーーい! 慌てず騒がず貴重品だけ持って、あそこから外へ避難しましょう!」
足下は
だが、
「タケル殿、魔王軍がっ」
外で包囲していた魔王軍が、避難路に使おうとしていた城壁の穴から、侵入してきていた。
「何やってんだ、あいつらも逃げた方がいいのに」
アイシャさんが仲間のハイエルフたちと協力し、魔法を使う。
強風が吹き荒れ、魔王軍の兵士を薙ぎ倒す。
だが、少し勢いを削いだところで、止まりそうにない。
そうこうしているうちに、避難民が集まってくる。
その中に、見覚えのある顔があった。
「ん? そこのガタイのいいあんた、まさか……」
相手も俺に気づき、緊迫した状況の中で、束の間、嬉しそうな表情を浮かべた。
「おまえ、あの時の……」
「やっぱり、スク水エプロンのあんちゃんだ!」
「そういうおまえは、黒服サングラス!」
いや、それ俺の性癖じゃないから。断じて違うから。
彼は、俺がこの世界へ来てすぐ、奴隷市場で優しい声を掛けてくれたスク水エプロン好きのあんちゃんだった。
「生きてたのか!」
「あんちゃんこそ……よく無事で」
たしか、ぶよぶよのマダムに買われていったはずだが、イルファーレンにいたのか。
思いがけない再会に、状況も忘れて涙ぐむ男二人。
その時、あんちゃんの背後で、
「キャッ」
という悲鳴と共に、女性が
「大丈夫ですか、マダム!」
あんちゃんが駆け寄り、助け起こしたのは、彼を買ったあのぶよぶよマダムだった。
「足をくじいてしまったわ……」
「俺の背中に」
あんちゃんが、あの百キロはありそうなマダムを背負う。
ムキムキの筋肉がはち切れんばかりに盛り上がっている。
にしても、随分とかいがいしいというか……。その姿は、奴隷とそれを
「あんちゃん、こっちに来て何があったの……?」
あんちゃんは、フッと笑った。
「……新しい性癖に目覚めたのさ」
いい笑顔で言ったあんちゃんの背中で、マダムがポッと赤くなる。
「この人は、俺の大切な人なんだ」
「そっか。守りたい人ができたんだね」
どんな性癖に目覚めたのかはあえて想像しないようにして、俺は話を感動的な方向でまとめる。
「わかった。どうにか逃げ道を作るよ、あんちゃん」
あの時、優しくしてもらった恩返しだ。
「ガイオーガ、どうにかできないか?」
「ソレハ、人ヲ活カス道カ」
「まさにそうだ」
「ワカッタ」
ガイオーガが
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます