コンとハク

曲が終わると、死神の拍手の音が響く。


◎死神

「すばらしい、星佳さん、歌、ますますお上手になりましたね」


●星佳

「え、あなた、私のこと、知っていたんですか」


◎死神

「はい、私は、あなたのファンです」


●星佳

「嘘でしょ」


◎死神

「はい、嘘です」


●星佳

「なんなの、あんた」


◎死神

「死神です」(胸を張って)


●星佳

「……私の手紙、持ってないでよ、変態」


◎死神

「これは、あの世にいるリンタロウくんのたましいから預かってきたんです。あなたが歌っている間、リンタロウくんの一部がずっとそこに、いましたね」


死神、そう言って、ギターの置いてある椅子を指さす。


●星佳

「あなたには、見えたの?」


◎死神

「ええ、ギターを弾いていらっしゃった」


●星佳

「私が、あの人を見ようとすると、すぐに姿をくらましちゃうっていうのに、ずるい」


◎死神

「それが死神の能力です、いい加減、信じてくださいませんか?」


●星佳

「もういいわよ、その手紙を持っている時点で、嘘じゃないでしょ。それにしてもあなた、一々ムカつくし、あの世にいる倫太郎とか、そこにいる倫太郎の一部とか、意味分かんないんだけど」(少し、キレ気味に)


◎死神

「説明するの、若干面倒くさいんですけどね、仕方ありません、説明しましょう。このどこでもドアは、あの世に繋がっているんです。私はそこから来ました、死神ですから。そして、このドアの向こうにはあなたの恋人だった倫太郎くんの魂がいます。倫太郎くんの魂ね、成仏したいんだけど、できない状態にあるんですよ。人は死んだら、魂魄って聞いたことありますか?魂(コン)っていうのは人の精神を支える気、これは天に還るたましいです。そして魄(ハク)は人の肉体を支える気、こっちは地に還るたましいです。この二つにたましいは別れるんです」


●星佳

「はあ……はあ?」


◎死神

「あなたの恋人だったリンタロウくんは、死んでしまった今、肉体を失い、コンのリンタロウくんとハクのリンタロウくんに分かれて、それぞれ別の場所にいるんです。そこ、まさにそこ、あなたのそばにいるハクのリンタロウくんは、この世への執着が強すぎてコンのリンタロウくんが持っていなきゃいけない部分まで持ったままこの世にいるもんだから、コンのリンタロウくんは不完全な姿のままで成仏もできずにいるんです。つまり、ハクのリンタロウくんの…」


●星佳

「ちょ、ちょっと、待って、ハクとかコンとか、リンタロウの…よく分かんない、倫太郎が二つに分かれたってことは分かったけど…ややこしいんですけど」


◎死神

「じゃあ、こうしましょう、リンタロウくんのハクはハクタロウ、リンタロウくんのコンはコンタロウ。そこにいるのはハクタロウくんです」


●星佳

「コンタロウにハクタロウって…センスゼロね、変な名前」


◎死神

「あなたがややこしいとか言うからです。私も若干、混乱しています。慣れてください、話を続けます。ハクタロウくんは、本当は、もう肉体を持たないから地に還って塵になるんです」


◎星佳

「ちり……」


●死神

「……ちり」


二人は、ギターの置いてある椅子を見る。


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