第9話
席に着くと店員さんから1枚の紙……いや羊皮紙を渡された。
内容を確認すると、どうやら耳環の能力説明文のようだ。
「agape」
無償の愛。
この耳環をつけた2人は距離を超え互いの存在を確認することが出来る。
「link」
存在を確認出来る限り距離を超え互いの居場所への転移が出来る。
要約すると……生きている限り相手の存在を確認でき、しかもそこへ転移出来るという事か。
使い所は微妙だけど何かあった時には非常に有用な能力だ。
…高いだけあって凄いな。
受け取った説明書は、丁寧に包装された耳環と一緒にアイテムボックスへと収納した。
そして店員さんに挨拶して店を出ると、ここでも店員総出でお見送りされた……恥ずかしい。
耳環を買うと店から出た俺たちは、小腹がすいてきた事もあり食事できる店を探した。すると少し歩くと良さそうな雰囲気の店を見つけた。
店名は……
「食事処 あかはなのさんたくろーす」
もう突っ込まない……そう決めた。
俺とセリナは無言のまま店内へ入ると空いてる席に座った。すると店員さんが水を持ってきてくれた。
「いらっしゃいませ!ご注文はお決まりですか?」
そう言って営業スマイルを浮かべる店員さんに、俺は確認しても分からないメニューを閉じると言った。
「ランチセット 2つお願いします」
店員さんはかしこまりぃ!と言ってキッチンへと向かうと、直ぐにでてきたランチをセリナと楽しんだ。
味は……なかなか美味しかった。
食事を終えた俺たちは再び散策を続けると公園が目に入ってきた。さっそく公園に入るとベンチを見つけた俺達は腰掛けた。
そして見上げると青い空。
ポカポカな陽気も相まって……和む。
平和だなぁ……俺がそう呟くとセリナも「平和ですね」と頷いた。
そんな穏やかな空気に突然威勢の良い声が割り込んできた。
「号外!号外だよぉ!」
そう叫びながら新聞屋が号外をばら撒いていた。その紙が風に乗って足元へ来たので拾い上げて読んでみた。
タイトルは……
「緊急!封印の洞窟に異変を確認!」
封印の洞窟か……なんだか凄くやばそうな場所もあるんだなぁ。
せっかくだし内容も確認してみるか。
「町の外れにある照魔の森の奥……封印の洞窟に強大な力の顕現が各国で確認された。洞窟には魔王が封印されているという伝説が語り継がれており、今回の事件は魔王復活の兆候ではないかと考えられている。今後、封印の洞窟調査のため冒険者連合が調査団を派遣するとの発表もあり……」
「物騒ですね?」
内容を一緒に見ていたセリナの呟きに「そうだね……」と俺も同意した。
とは言っても俺たちには縁遠い話だろうし、気にしても仕方ない。
俺は立ち上がると号外を近くのゴミ箱に捨てて、セリナと散策を再開した。
その後は通りがかった服屋で衣類を買い揃える事になった。俺は変わりばえしない黒系統の服を何着か購入した。
セリナはというと……
あーでもない、こーでもないと色々な服を試していた。
俺はセリナなら何を着ても似合うよと思いながらも楽しそうに服を選ぶ彼女を眺めた。
そして買い物を終えた頃には、辺りも茜色に染まり始めていたので俺達も宿に戻る事にした。その道中にある屋台で焼き鳥やハム、チーズに酒を購入した。
そして部屋に戻ると俺達はさっそく食事を始めた。
安かったから不安はあったけど、食べてみるとなかなか美味しかった。
そして食事を終えた俺たちは浴場へと向かった。
……もちろん男女別だ。
先に風呂を終えた俺は酒とチーズ、ハムを用意した。
風呂上がりの一杯を2人で楽しもうと思って……
しまった!グラスがない……。
俺は慌てて食堂へと向かうとグラスを借りた。その帰りに風呂上がりのセリナとばったり合流した。
風呂上がりのセリナ……色っぽい!
そんな事を思いながら2人で部屋へと戻った。
部屋にはあらかじめ準備していた晩酌セットがあったので、椅子に座ると借りてきたグラスに酒を注いで乾杯した。
チーズをつまみながら酒を飲み、他愛もない談笑を続けていたんだけど…夜も深まってきた。
そろそろ寝よっか……と提案しようと思っていた時、セリナが意を決して言った。
「あの、旦那様?耳環をお願いしてもいいですか?」
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