第8話

宿を出た俺たちは町をゆっくり歩いた。


こうして歩いてると昨日は目に入らなかった様々なものが目に入ってきた。


武器屋もあるしアクセサリーショップや服屋、露店など…眺めてるだけで楽しい時間だ。

町の様子にセリナも目を輝かせていた。


そうやって2人で歩く中……俺は欲しいものが今朝出来たので、それを探しながら歩いていた。


そう…耳環だ!

ナビに聞いてみたらエルフ特有の文化で「いわゆる結婚指輪」のようなものらしい。


これは何としてもプレゼントしたい。

そう思って耳環を売ってないかずっと探しているんだけど…どこにも見当たらなかった。


どこで買えるんだろう?

考えながら歩いているとナビが素晴らしい提案をしてくれた。


「マスター。耳環は近くの宝飾店で入手出来るようです。ナビを開始しますか?」

ナビ様!!何卒よろしくお願い致します!

俺がそう答える前にナビは案内を開始してくれた。


ありがとう!

俺はナビにお礼を言うと、さっそくセリナに提案した。


「セリナ、あっちの方も見たいんだけど…いいかな?」

バレないようにさりげなく誘うとセリナは笑顔で頷いてくれた。

俺達はナビの案内に従って少し歩くとその店を見つけることができた。

そして、その店の看板を見た俺はびっくりした。


「もふもふ長耳宝飾店 」

……大丈夫か?

一生もんの買い物だぞ?


こんなネーミングセンスの店に………いや待て!

目からウロコ亭も名前はアレだけど素晴らしい店だった。


むしろこの世界ではそちらの方が良い店の可能性がある。

無理に買う必要もないんだし、見るだけ見てみるか……そうと決まればセリナに相談だ。


「セリナ…この店で耳環を見たいんだけどいいかな?」

俺がそう聞くとセリナは目を輝かせて言った。


「!?……いいんですか?」

驚きながらも喜びを隠せないセリナに俺は言った。


「気にいる耳環があるかは分からないけど見るだけ見てみようか?」

その言葉にセリナは「はいっ!」と返事をしてくれたので、俺たちはさっそく店に入った。


店内は様々な宝飾品が整然と並べられていて、どれも素晴らしい品質だと感じた。


…やはり変な店名は良店の証なのか?

そんな事を思いながらセリナに目をやると、店内を興味深そうに見て回っていた。


やっぱり女性はアクセサリーが好きなのかな?

セリナの様子に笑みを浮かべていると声が掛かった。


「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」

声の方を見ると……うさ耳の美少女が立っていた。


……ほんものだ!

本物のバニーだ!!


み、耳が動いてる!

すげぇ!!

うさ耳の店員さんは固まる俺の様子に首を傾げると、その態度に俺は平常心を取り戻して聞いた。


「あ、すみません!ちょっと興奮、いや動転してしまって。そうそう耳環!!耳環を探してるんですけど……どこにありますか?」

しどろもどろに聞く俺に店員さんは引き攣った笑顔を見せると答えてくれた。


「耳環でございますね?こちらでございます」

ちょっと引き気味な店員さんの案内で俺は無事に耳環コーナーへとたどり着いた。


そしてさっそく見てみたけど……ダメだ。

俺の目にはどれも同じように見えた。そもそもアクセサリーなんてつける機会がほとんどなかった俺には、耳環の良し悪しがよく分からなかった。


その様子に気付いたのか……うさ耳の店員さんが声をかけてくれた。


「お客様!サイズはお分かりですか?」


「サイズがあるんですか?分からないです」

まさかの質問に驚いたけど、指輪にサイズがあるんだから耳環にもあって当然か。

分からないと答えた俺に店員さんが言った。


「ではまずサイズを測りましょうか?」


「お願いします。あ!妻のサイズ計測もお願いしていいですか?」

店員さんは勿論ですと言ってくれたので、セリナを呼んで一緒に測定してもらった。


計測の結果…

俺はK、セリナはQでサイズを基に店員さんにペアを探してもらった。

待ってる間セリナが耳元で囁いた。


「素敵な耳環が見つかるといいですね!」

その言葉に「きっと見つかるよ」と答えるとセリナは満面の笑みを向けてきた。


しばらく待つと店員さんが「お待たせしました!」の言葉と共に1組だけ耳環を持ってきてくれた。


1組しかないのか……あまり期待は出来そうにないな。

そう思って耳環を見た俺は驚いた。


細い装飾が施された耳環は、中心に輝く赤い宝石が埋め込まれていた。


これ……アリじゃね?

一目見て俺はそう思ったけど、セリナはどうだろうか?さりげなくセリナを見てみると、耳環をウットリした表情で眺めていた。


……決まりだな。


「店員さん!これにします」

俺はそう言うと店員さんは驚愕の表情を浮かべた。


どうしたんだ?


「お客様。その…お買い求め頂きありがとうございます…会計はあちらでよろしいでしょうか?」

そう言って奥のソファー席へ案内された。


セリナは相変わらず眺めていたので俺と店員さんの2人での話になった。


「その……お客様。勧めておいて大変申し上げにくいのですが、あちらの耳環……かなり値段が……」

店員さんの態度と言葉で理解した。


恥をかかせまいと離れたスペースへ誘導してくれたのか。俺は優しい店員さんの心遣いに感謝すると笑顔で言った。


「大丈夫ですよ。おいくらですか?」


「その………1700万Gでございます」

……マジか。


貨幣感覚が分からないけど、ランチの値段から想像すると日本円と大体同じくらいだから…田舎なら中古で一軒家が立つ金額ぐらいか。


……まぁ、買うんだけど。


「大丈夫です。下さい」

そう伝えてナビ様にお願いすると、返事の代わりに袋が4つ出てきた。


びっくりする店員さんに「アイテムボックス」から出した事を伝えると袋を確認して貰った。

確認に時間が掛かるなら一度出直すと伝えたけど、店員さんは奥から応援を呼んでくれたのでスムーズに支払いが終わった。


俺はセリナのところに戻ると未だに耳環を眺めていた。

俺は肩を優しく叩くと、ビクッとして驚くセリナに言った。


「ごめん、待たせちゃったね!やっと支払いが終わったよ。早速つけてみようか?」


その言葉にビックリしたのか、見惚れ過ぎて周りの音が聞こえてなかったのか……セリナは驚きながら聞いてきた。


「この耳環を購入されたのですか?」

俺にそう聞いて驚くセリナに言った。


「うん。早速つける?」


「いや、えっと…その…ありがとうございます。つけるのは夜……宿に戻ってからにしましょう」

あれ……嬉しくないのかな?

さっきまではすごく嬉しそうだったけど、今は顔を赤らめていた。


まぁセリナが言うならそれでいいんだけど。


じゃあ包んでもらうか。

俺は店員さんにお願いすると「勿論でございます。商品の説明もございますので此方へどうぞ」と言って先ほどのソファに案内された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る