10時25分

今までは子供だからいつでも危なくなれば

逃げ出せたが、

いや逃げなくても普通に腕力で制圧出来るが、

逃げ場の無い坑道こうどうの中となると話は違う。


仲間でもいて囲まれれば逃げられない。


そんな大人の事情も知らず、

無邪気に待つ少年の顔を見ていると、

そんな事で悩んでいる自分がバカらしくなった。


行くか。


私は進むことにした。


少年はそんな私の不安などお構い無く、

無邪気に私の手を引き、

暗い坑道の中を進んでいく。


後付けで付けられた豆電球が、

坑道内を朱にそめていた。


坑道内はさらに空気が薄く、

私は軽い目眩を覚えていた。


しばらく進むと壁際で座り込んだ老人が、

じっとこちらを見つめていた。


くぼんだ目は無関心を装って、

こちらを観察しているように見えた。


深く刻まれた年輪のようなシワを動かし、

老人はしわがれた声を発した。


「ここから先は一般人は立ち入り禁止だ」


そう言った老人は、

まるでそう言うだけのオームに見えた。


少年が私に説明する。


「アンジーだよ。 大丈夫」


そう言うと少年は老人に、

なにか暗号のような事を言った。


「コードブルー」


老人はそれを聞くと、

電池が切れたように俯き動かなくなった。


私がたずねる前に、

少年は私の手を引き言った。


「大丈夫行こう!」


私は少年に手を引かれさらに奥に進んだ。


トンネルの最奥。


落盤して塞がった所に一人の男が立っていた。


男の首、喉元のどもとに十字の入れ墨をした、

いかにもといった容姿の男だった。


警戒する私をよそに、

再び少年は男と交渉を始めた。


「新しいパーツ持ってきたよ」


「売りか」


男は値踏みするように私を下から上まで見た。


「そうだけど、今日は買いもあるよ」


少年がそういうと、

男は入れといった素振りをして、

坑道の横に付けられた非常口のような扉を開き、

その中に消えていった。


少年が私の手を引きそれに続こうとして、

私が立ち止まっているのを不思議そうに見上げた。


「ジャンク屋だよ。

携帯もあるよ 」


少年は不思議そうにそういうと、

再び私の手を引きその中に入っていった。





         ─10─

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