2085年10月18日

私の毎日は失われている。


メモを始めから読むこと。



私自身ここに書かれている事は信じがたい。


パスポートはある。


所持金もメモに書かれたとおり。


体重38㎏


火星にいると言う信憑性が増す。


私はまず、

このメモに書かれた事の真偽を確かめる為に、

携帯ショップに修理に出したという、

携帯を探しにいく事にする。


ここで私は、私が、

携帯ショップの名前をメモしてない事に気づく。


これは記憶が無くなると言う事の、

重大な欠点だ。



これからはもっと詳しくメモをしていく事にする。


今日それに気づけたのは良かった。


私は携帯ショップを探して歩き回る内に、

第三地区と呼ばれる場所に迷い混んでいる。


スラムとまではいかないまでも、

貧層地区であるみたいだ。


本当にこんなの所に、

携帯ショップがあるのかと思いながらも、

しばらくその地区を放浪する。


露天で売られている食品はどれも奇妙で、

奇抜だった。


火星特有の風土が産み出した芸術。


芸術は爆発だと言ったある芸術家の言葉が、

身に染みた。


さらに路地を奥に進み私は迷子になっていた。


乱雑に並んだ住宅街。


それがさらに私の方向感覚を失わせる。


完全に迷子だ。


空気の薄さがまともな思考回路を失わせていく。


酸素ボンベのレンタルはしていない。


資金が心もとなかったからだが、

今はしとけば良かったと後悔している。


立ちくらみがして近くの壁にもたれ掛かって、

一休みしている時に、

立ち並ぶアパートの三階から、

急に子供が飛び降りて来た時には驚いた。


重力が低い火星だから出来る遊びだとわかる。


ダメ元でその子供に携帯ショップを訪ねると、

「知ってるよ」との一言。


案内してくれる事になった。


そして子供に手を引かれ進む内に、

辺りはますます剣呑けんのん雰囲気ふんいきに。


私は少し後悔してきた。


スラムの子供の遊びは、生きた人形、人の命。


火星での行方不明者の人数は、

年間何人だっただろうと考えて、

私に記憶が無いことを思い出す。


いつの間にかトンネルの前まで来ていた私は、

そこでその中に引っ張って行こうとする少年に、

「ちょっと待って日記を書くから」と言って

立ち止まっていた。


ちょくちょく日記を書いていたのが伏線となって、

少年はその行動を怪しんではいない。


私は日記を書きながら逃げる算段をする。


少年が不思議そうにノートを覗き込むが、

文字は読めないようだ。


言語は同じだが文字は違うのかも。


とにかくどうするか決めなければ。


1、少年を信じてトンネルに入る。


2、逃げだす。





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