第3話 受験後

 やっちまった。

 センター試験の一次二次ともに志望校の合格ラインに届かなかった。滑り止めで受けた私大には合格したが、なんの慰めにもならない。

 幹樹菜は一次ですでに合格ラインに達しており、自己採点でも合格間違いなしだった。

 今年の初め頃占い師に、今年は十八年に一度しか訪れない幸運期と言われ、実際に運気が高いとしか思えないできごとも多々あったが、いちばん運気を発揮してほしい時にどん底まで突き落とされた。

「また来年ガンバればいいよ」

 幹に励まされたが、ムカつく勝者の弁にしか聞こえなかった。ならば、どう励まされら傷つかないのかというとそれも思いつかない。

 結局、自分の将来のことを優先することなく、幹を裏切る形で、ある意味で、イヤミか嫌がらせのように三流の私大に進学することにした。

 違う大学に通うようになると天野は自分からは幹と連絡を取らなくなった。向こうから誘われたら応じるという汚いやり口を続けているうちに、

「ほんとうに私のこと好きなの? 付き合っているってカンジがしないんだけど」

 という連絡を最後に彼女からまったく連絡が来なくなった。

 風のウワサで聞いた。

 幹樹菜はいま宮岸直斗と付き合っているという。



 私大で新しい人間関係ができた頃、昨年と同じ場所で占い師を見かけた。

「こんばんは。占い師さんオレのこと覚えていますか?」

 占い師は無言だった。知らないらしい。日々多くの人々が通りかかる人生の交差点でいちいち一人の客のことなど覚えていないのは自明だった。

「いつぞや近づいてくる人も幸運になる後光が差していると言われたヤツですよ。そのツイている男は国立大学進学のためのセンター試験に落ちて望まない私大に進学しました」

「おおおッ」占い師がのけぞった。「タロットをしなくてもわかります。これは人間十二人分くらいのヘドロを集めた邪悪な気です。君は呪われています。周りにいる人たちも不幸になります。どうしてそんなことになりました? センター試験に失敗したのなら、浪人して来年またチャレンジしたらよいでしょうに」

 幹にも勧められたが、自分の一時の我を貫いてしまった。

「感情的になったりしませんでしたか? 怒ったりジェラシーをコントロールできなかったり誰かに八つ当たりしたり」

 心当たりが大いにあった。

「しかし、案ずることはないのです。運気というのは、明るく楽しい人たちのところに集まるものです。暗く不幸を嘆いている者には幸運はやってきません。受験の失敗などキレイさっぱり忘れて今を楽しみ、感謝し、礼を持って尽くしなさい。あなたが楽しめるようになったら、周りの人も楽しめます。そうすると幸運が招かれるでしょう。幸運は輝いている人のところに集まりますよ。蛇足になりますけど、たとえば恋愛運というのは自分からアプローチする人の方が運気が上がります。待っているだけとか流されるだけの人には運気が離れる上に相手も巻き込まれていきます」

 天野はいま同じ学部に気になっている子がいて、その子も自分に気があるんじゃないかと思っていたが、急展開や伏線を待つのではなくその子にみずから告白することを決めた。



                                 (了)

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占いを、やってみました 早起ハヤネ @hayaoki-hayane

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