96話:間章 魔王の冒険
「なかなかの腕利きでした、陛下」
「ん? ああ、それなりだったな。まあこんな美味しい剣を置いてってくれたんだから、感謝はしてやるさ」
それなりと言ったが、さっきの戦闘……通りすがりの馬車に乗ってた四人は、かなりヤバかった。
なんだ、あの鉄塊は!?
リッチのヴァッサーゴが作り出したリビングメイルを一撃だぞ?
あまりにも危険を感じたから、真っ先に潰させてもらったけどよ。
「あの銀髪の魔術師、あれほどの光矢をあれだけの数放てるとは驚きでした。できるなら部下に欲しかったものです」
「そうか? まあ、銀髪幼女は惜しかったけどな。横の姉ちゃんとかも結構上玉だったし、見逃したのはもったいなかったかな」
「スコットとダニエルの二人を失ったのも痛いですな。我々には斥候役が居ませんし」
「そんなもん踏み潰しゃいいのよ」
「陛下は大丈夫でしょうが、非才なる我らはそうもいきますまい」
「……ちっ!」
舌打ちが漏れたのも仕方ない。
俺は魔術の才能で一通りの魔術を使いこなすことはできるが、その把握力や構築力まで才能があるわけじゃない。
俺は魔術においては器用貧乏なのだ。
この迷宮を攻略するに当たって、コイツの魔術が物を言う事態は、多々あるだろう。
他にもヴァンパイアのクラウディアの影飛びやら、物理耐性なんかも使い道はあるはずだ。
罠の存在を感知できない以上、コイツらの技能は必要になるはず。
「わかった。俺が先頭を行くから、お前らは後ろからついて来い。罠が発動した後なら、どうとでも対処できるだろう?」
「よろしいので?」
「この先、お前らの腕が必要になる時もあるだろうさ」
「ハッ、陛下のご期待には、必ずや応えて見せます」
頭を下げるのは結構だが、荷物が重いんだよ。
スコットとダニエルのイヌコロ共め、あっさり殺られてんじゃねぇよ。だっせぇな。
「それより二人分の荷物が増えたんだ、何とかしろよ」
「そうですな、新たにリビングメイルを作ろうにも、素材がありませんし、ここはゴーレムで代用いたしましょう」
そう言って懐から木の枝や金属塊を取り出し、呪文を詠唱。
使用する才能だけしかない俺に取っちゃ、なに言ってるんだかわかりゃしねぇ。
三十分ほどムニャムニャ唱えていたら、小さな木の枝や金属が二メートルを超えるゴーレムになりやがった。
質量保存の法則とかどうなってんだろうね?
「ま、いっか。ンじゃ、そいつらに荷物持たせろ。俺はこの剣を使わせてもらうからな」
「承りました」
さっきのガキが持ってた二メートルを越える大剣。
こいつぁすげえシロモノだな。
見た目の割りに異様に軽い。そのくせ質量はしっかりと残してやがる。そして頑丈だ。
俺が本気で剣を振ると、柄を握りつぶして、刃もあっさりとへし折れちまう。
だがコイツはそんな心配が全くねぇ。
ようやく俺にふさわしい武器を手に入れたってわけだ。
「ま、奴隷の代わりに最強武器が手に入ったと思えば、悪い気はしないか。中古だけどよ」
そこへタイミング良くゴブリンウォーリアが現れやがった。
いいな、試し斬りに使わせて貰うか。
「おらぁ!」
真っ直ぐ踏み込んで、軽く一振り。
普通の剣だったら、これだけで柄がぶち壊れ、剣先がすっ飛んでいく。
だがコイツは俺の力をしっかりと受け止めた。そして遠心力で加速された力は、余す所無くゴブリンウォーリアに伝わった。
ゴシャッと果実を踏み潰すような音を立てて、バラバラに吹っ飛ぶ敵。
「ハハッ、こいつぁ良い! 良いぜ!」
跡形も残ってねぇ。これは気分がいいな。
「次だ。俺にもっと斬らせろよ、お前ら!」
次は少し力を入れて一振り。
今度はバラバラどころじゃねぇ、血煙になって死にやがった。
「ハハッ、ハハハハ……ハハハハハハハハ!」
出てきた残り三匹を、俺は笑いながら通路の染みにしてやった。
「お見事にございます、陛下」
「ああ、コイツはイイぞ。最高だ」
「あら、ご機嫌ね、珍しい」
「……お前どこ行ってたんだよ?」
戦闘を終えて鼻歌交じりの俺に、クラウディアが声を掛けてきた。
こいつはさっきの連中と戦った後『お腹空いた』と言って、姿を消してやがったんだが……
「ちょっとね。そこらの冒険者をツマミ食い」
「狩られても知らねぇぞ」
「ここらにそんな腕利き居ないわよ」
「さっき居ただろうが」
ついさっき、銀髪に顔面ぶち抜かれそうになったの忘れてやがる。
こいつら吸血鬼はプライドが高いから、危なかったのは無かったことにしているのかも知れない。
「フン、私が本気出せば、あんな連中は一人で挽肉よ?」
「ヴァッサーゴに援護してもらわなきゃ、危なかった分際でよく言うぜ」
「必要なかったわよ? あのガキ、私の動きについて来れてなかったもの」
「敵を侮るのは感心せんな。あの少女が本気で周辺ごと焼き尽くせば、動きの速さなど関係なかろう」
「なによガイコツ、わたしにケチ付けるってぇの?」
俺を差し置いてにらみ合いを始めた二人。こいつら、目を離すとすぐこれだ。
「死んだ連中なんてどうでもいいだろ。先急ぐぞ、まだ九百五十以上も残ってるんだからな」
そうして俺は一歩足を踏み出し……逆さ釣りになった。
「プッハハッハハハハ! 陛下ってばおっかしぃ!」
「陛下、今下ろしますゆえ、しばしお待ちを」
「……誰だ、これ仕掛けた野郎は?」
気がついてみりゃ、単純なアンクルトラップだ。だが俺たちにはそれを見抜く目が足りない。
遠くの方でコボルド共がウキャウキャ笑ってやがる。ブッコロス。
ヴァッサーゴが風刃を飛ばし、脚を絡めた蔦を切る。
地面に落とされた俺は、大剣を手に取りすぐさま駆け出した。
「クソ犬共、そこを動くなぁ!」
そして俺は、落とし穴に落ちた。
「陛下、今引き上げますゆえ……」
「ヒ、ヒヒヒヒ……アンタ私を笑い殺すつもり!? 死ぬ、死んじゃう! アハハッハハハハ」
「ダマレ、ぶち殺すぞ」
俺は落とし穴から引き上げられ、床に腰を下ろした。
コボルド共はその間に遁走したようだ。覚えてろよ?
「おい、やっぱり斥候を雇いに戻らねぇか?」
「とは言え、我々の正体は先ほど明かしました。目撃者も多数居た為、街にもすぐ広まるでしょう。我らと手を結ぶ者がどれ程いるか」
「力尽くで集めりゃ何とかなんだろ」
「その方針で集められる程度の者が、有能だとはとても思えませぬ」
「クソが……」
確かに腕の立つ奴ぁ、身の危険を感じたら姿を隠すわな。
それが出来ねぇ奴は、危険を感じる能力が低いってわけで……つまりは、役立たずだ。
どうにも矛盾してやがる。
「しょうがねえ。おい、やっぱり固めのゴーレム作って前を歩かせろ。いつまでも俺が先頭だと、身がもたねぇわ」
「しかと承りました」
「クラウディア、てめぇは飛んで上を見張れ。見落とすんじゃねぇぞ」
「めんどくさいわねぇ」
愚痴を言いながらもフワリと宙に浮く彼女。
独立気質な吸血種の中にあって、コイツは俺に惚れて付いてきたそうだが……それも怪しくなってきたな。
「当面はこのフォーメーションで進むからな。行き詰ったら、その時はその時だ」
「御意にございます」
「りょーかいよ」
こうして俺達は、前途多難の進軍を開始した。
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