84話:4章補完 レミィさんの手紙
前略、レヴィへ。
なんて、かしこまる仲でもなかったわね。
改めて、おかえりなさい。
あんな事件があったから、自殺でもするんじゃないかと心配したわよ?
貴女がそんなに弱い子じゃないとは知ってたけど、それでも万が一にそういう事が起こるのが、この商売だもの。
貴女が出て行って、丸一年。
短いようだけど、わたしにはとても長かったわ。
登録して、たった一年で百階を越えた貴女たちは、私にとっても希望の星だったわ。
あの迷宮を制覇するなら、きっと貴女だと思っていたもの。
だから、貴女はきっと帰ってくるって信じてた。
初めて会った時のこと、覚えているかしら?
貴女はカウンターに着くや否や、「世界樹を登るから、資格ください」って言ったの。
成人前で登録しに来る人はたくさん居たけど、貴女はその中でも飛びっきり……抜けてそうだったわ。
だから仲間を斡旋して、学園に推薦して、色々世話を焼いてるうちに、変な情も湧いちゃってね。
まるで妹が出来たみたいな気持ちだったわ。
そんな貴女が、どんどん階層をクリアしていく。
迷宮に泊り込む日が、一日増え、二日増え、それに反比例してギルドに顔を出す日が減っていって、正直寂しかったわね。
でも、貴女が持ち帰る土産話は、とても楽しかった。
どんな罠があったか、どんな魔獣と戦ったか、そしてどんなドジをしたか。
貴女は必死で攻略してたのに、私はそれを劇でも見るかの様にしか見てなかったの。
だからきっと、レヴィ、私は貴女がこの世界樹を攻略すると、根拠も無く思い込んでいたの。よくできたお芝居の様に。
あの日、パーティが壊滅したと聞いた、その時にその間違いを思い知らされた。
なぜ、もっと警戒するように口にしなかったのか。
なぜ、調子がいい時ほど危険が潜んでいることを知らせなかったのか。
私は過去にそういう話を何度も聞いてきたのに、貴女たちにはそれが当てはまらないと思い込んでしまっていたわ。
何でも見透かすかのように大人びた対応をする貴女なら、そんなの必要ないと信じ込んでしまった。
最初に見た時は『抜けてる』って思ってたのにね。
私は貴女の油断を見て、知って……なのに警告しなかったの。
だから、あの事件は貴女だけのせいじゃない。わたしのせいでもある。
だから謝りたかった。
でもそれは、多分しちゃいけないことだと、あの時は思った。
落ち込んでる貴女に『わたしのせいだ』なんて言ったら、逆に傷つけたかもしれなかったから。
だから、貴女が街から消えた時に、私はまた間違えたのかと悩んだわよ?
でも、貴女は戻ってきてくれた。
新しい仲間を連れて、伝説に再び挑むために。
あれから、たった一年。
あの事件の事を覚えている人も多いし、貴女の心の傷も癒えきってはいないでしょう。
でも再び立ち上がってくれた貴女を見て、わたしは伝説の英雄を見る想いよ。
だからレヴィ。
おかえりなさい。
ありがとう。
そして、ごめんなさい。
他の皆が貴女を否定しても、私は貴女の帰還を歓迎するわ。
貴女の親友、レミィより。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます