81話:4章 課題クリア

 登録してから四日目。二度目の迷宮探索開始です。

 なお、ハスタールは少々ゲッソリしている模様。神器のギフトの恐ろしさを思い知ったか! なのです。


「神器コワイ、マジコワイ。気が狂うかと思った……」


 いつもは好き放題攻められてるわたしですが、ちょっと『指輪』を外してお相手してやれば、主導権はこっちの物なのです。

 これに懲りたら、浮気には注意するのですよ?

 さて、今回は準備万端にしていますので、大きな成果を期待しています。


「でもねぇ、その『ちょーおんぱ』だっけ? それで本当に敵の位置がわかる物なの?」

「信じるかどうかは結果を見てから行ってください、アレク」

「なに、失敗しても損は無いさ。音で敵が寄ってくれば、それはそれで成功といえるしな」


 わたしの説明に、アレクは懐疑的、ハスタールは楽観的な感想を言ってきます。

 おのれ、まったく信用してくれませんね?


「ムムム、見てなさいよ二人とも! 新魔術の威力を見せてやるのです!」


 バッとマントを翻し、術を行使する準備に入るわたし。

 ……イーグ、なぜしゃがみ込んで耳を押さえるのです?


「失敬な。もう失敗したりしませんよ?」

「ウギュ~」

「ま、ユーリだしな」

「そうだね、ユーリ姉だしね」

「しかたないですね」

「お前ら……」


 失礼な意見を述べる連中に痛い目見せてやろうかと思いましたが、ここは自重します。大出力超音波は自分にもダメージがあるので。

 先日の行使で術式のイメージはバッチリ、無詠唱で探信を使用します。

 カンという金属を叩くような音と共に、脳裏に視界広がっていく感覚。

 某盲目のアメコミヒーローもこんな感覚をしてたのでしょうか、ちょっと快感です。


「前方を右折した先およそ百二十メートルくらいの位置に生物三体、その先四十メートルにも二体いますね。左折した先にはなにもいません」


 結果を報告。この魔術では生物の存在は判っても敵かどうかがわからないので、曖昧な表現になります。

 そこで次に嗅覚強化を使用します。


「草っぽい臭いがするので、クリーピングバインで間違いないと思います。その先の二体は洗ってない犬っぽい臭いなので、コボルドでしょうか?」

「スッゲェ、そこまでわかるんだ?」


 驚愕するアレクにドヤ顔を送ってから、右への進行を指示。

 しばらく進むと、案の定クリーピングバインが三体壁に生えていました。


「しかも結構上の方に。これ、ウッカリすると見落として奇襲喰らいますね」

「ここのモンスター共は妙にずる賢いな」

「ま、わかってれば問題ないけどね。さっさと片しちゃおう」

「あ、アレクさん気をつけてくださいね?」


 マールちゃん以外はすでに楽勝モードです。

 刃物が届かないので風刃の魔術で根元を切り落とし、地に落ちた所をハスタールとアレクが優しく殲滅します。激しくすると回収部位が粉々になるので。

 先制を受け、なすすべも無く蹂躙されたクリーピングバインから、素材を回収するかたわらで、再度探信を使用します。


「獣っぽい臭いはこっちの戦闘音を聞きつけて逃げたんでしょうか、少し離れて行ってますね。距離七十メートルというところです。それとは別に、この先を左折した先に更に反応あり、です」

「そっちは目標か?」

「はい、同じ臭いがしますね。間違いなくクリーピングバインかと」

「便利だなぁ、それ」

「見直しやがりましたか?」


 アレクが感嘆の声をあげるので、わたしの鼻はドンドン高くなります。

 剥ぎ取りを終えたハスタールもわたしの頭を撫でてくれました。ちょっと手が草臭かったのは減点でしたが、いい感じです。


 その後も順調に狩りを続け、日が暮れる頃には三十七体のクリーピングバインと十二体のコボルドを倒していました。

 その間、奇襲などを受けることもまったく無く、危なげなくミッションクリアになりそうです。


「一昨日の分と併せると、これで四十三体分。思ったより楽勝だったね」

「ユーリの新魔術のおかげだな。これは感謝しないとな」

「感謝はキチンと形にしてくださいね」

「ま、なにか考えておくとしよう」

「いいんでしょうか、わたし何もしてません」


 ランタン持って付いて来ただけになってしまったマールちゃんは、少し恐縮しています。


「いいんですよ、元々はここに来る予定じゃなかった訳ですし。ついでです、ついで」

「そうそう。マール君は治癒術師になってから私たちの役に立ってくれればいいさ」

「……師匠ってユーリ姉と話す時以外は、結構気取った話し方するのな」

「昔からこうだったろう? それに区別は大事だと思うぞ。ユーリにはそういう気遣いは必要ないからな」

「わたしは特別ってことなのです!」


 えへん、と胸を張って見せます。

 自分が特別と思われてるのは、少し優越感を覚えます。


「さて、レヴィも待っていることだし、今日はこの辺で帰るとするか」

「了解です。四日でクリアとか、きっと驚くのですよ」

「そうかなぁ? 単独だと一日三匹も倒せば到達する数だから、そう早くは無いんじゃない?」

「む、確かにそうですね。わたしたちは案外優秀では無いのでしょうか?」


 クリーピングバイン3匹を1日で倒すのは、やろうと思えば充分可能な数です。

 初日、迷宮に戸惑いが有った分と、翌日に休日を入れた分で遅れを出してしまったのがいけなかったでしょうか?


「気にすることは無いさ。迷宮初体験で実質三日だぞ? それに、今なら一日でノルマを達成できるペースだし、そう考えれば成長したとも取れるだろう」

「それもそっか。重要なのは、本登録になってからだしね」

「そういうこと。じゃあユーリ、索敵を頼む」

「はい」


 今度は安全な帰還を確認するために探信を使用します。


 ―― んぅ? 後方二十メートルに二メートル弱の反応と、その後ろ更に二十メートルくらいに四つの反応?


 フォーメーションっぽい配置になにか意思を感じますね?

 嗅覚強化で更に調べて見た結果。


「ハスタール、後方二十メートルに人がいます。しかもその後ろ二十メートルに四人。なにか、こっちを窺がってる気配なのですが?」

「人? コボルドとかじゃ無くてか」

「焼いたお肉とお酒と化粧の臭いをさせたコボルドって、いますか?」

「……いないな。別のパーティかもしれんし、野盗の可能性もある。一応挨拶ついでに近寄ってみるが、襲い掛かって来る覚悟はしておいてくれ」

「了解」

「わかった、マールちゃんは後ろに下がって、師匠は前に」

「は、ハイ」

「ああ、ユーリも油断しないように」

「了解です」


 さりげなく帰る振りをしつつ、謎のパーティに向かって進みます。

 こちらが近づいたので隠れるのをやめたのでしょうか、一人の男が物陰から出てきました。

 それに合わせて近づいてくる四人。


「よう、新入り。調子はどうだ」

「上々だ。今日には本登録できるだろうな」


 出てきた四人には見覚えがありました。ギルドでハスタールに絡んできた人たちです。

 全員が揃ってニヤニヤした笑いを浮かべています。なにか嫌な感じです。

 四人とも皮鎧や胸当てを装備し、長剣や斧で武装しています。後ろの四人の中には魔術師もいるようです。


 ――斥候役一人と魔術師、あとは前衛を兼ねる戦士三人? 偏ってますねぇ。


「ほぅ、もう四十匹狩ったのか? そりゃ大したモンだ。確か昨日は潜って無かったよな?」

「よく知ってるな」

「そうツンケンするなよ。帰ったら一杯奢る……いや、そんだけ収穫があったならそっちが奢れよ」

「こういうのは先輩が奢る物じゃないのか?」

「まあそうなんだが――いいや、奢るのは無しだ。面倒だからお前らの獲物、寄越せよ! 俺たちが有効活用してやるぜ!」


 叫ぶや否や、素早く剣を抜き斬り掛かって来る男。

 さすが探索者と言うべきか、その動きは充分に熟練を感じさせる物でした。

 ですが、こちらもそれを警戒したのです。

 ハスタールが一歩、いえ半歩下がって剣を避け、クリーヴァを一振りして男を吹き飛ばします。


「ぐびゃ!?」


 珍妙な悲鳴を上げて吹き飛んでいく男。ハスタールも手加減をしていたのでしょう、まだその原型は残っています。

 吹っ飛んだ男にたたらを踏み、出遅れた残り四人にアレクが牽制の斬撃を放ちます。

 その一振りは命中こそしませんでしたが、剣風は腰を引かせるに充分な威力を秘めていました。


「ぶぉっ!」

「なんだこりゃ、聞いてねぇぞ!」


 そこで、一人離れていた魔術師の男がやっと呪文を唱えだします。


 ――遅いですよ。術者は発動速度と柔軟性が命です。


 詠唱するべく口を開いた所を狙い澄まして威力を落とした風弾をぶつけます。

 発声の為の呼気と風弾がぶつかり合い、男の呼吸が乱れ、大きく咳き込みだします。

 あの様子では、しばらくはまともに詠唱はできないでしょう。


「さて、どうする? 一人は気絶、一人は無力化。たとえ立ち直ったとしても、何度でも無力化してのけるぞ? こっちの術者は腕利きだからな」

「くそっ」

「ついでにオレたちも腕利きだ。お前ら程度が三人なら問題なく殲滅できる」


 片腕でセンチネルを突きつけるアレク。

 武器軽量化が普及していない今、それはトンデモなく異様な光景に見えたでしょう。


「なんだよ、その武器……お前等迷宮に入る前はそんなモン持ってなかっただろう!」

「街中から監視してたのかよ? 暇なんだな」

「だがユーリの探信に今まで引っ掛かってなかったということは、さっきまでは見失ってたと言うことか? だとすれば、腕の方もお察しだな」


 わたしたちは早朝から迷宮に潜りました。

 酒の臭いを漂わせてる彼らには、早朝はツライ時間帯だったのでしょう。

 今朝は間に合わず、迷宮内でわたしたちを探し回っていたわけですか。


「あなたたち、アホでしょう?」

「なんだと!?」

「そんな労力を払う暇があるなら、まともに攻略を進めればいいのに」

「見事にドロップアウトまっしぐらって奴か。悪いが今回の一件はギルドに報告させてもらう」

「ま、待て、待ってくれ!」


 ギルドに報告と聞いて顔色を変える男たち。さすがに処罰は恐ろしいようです。


「今から報告まで時間があるな。すぐこの街を出て、名を変えひっそりと生きていけば、まあ問題は無いだろう?」

「そんな甘いもんじゃねぇよ!」

「なら俺たちと死ぬまで戦うか? 言っておくが、迷宮は初心者だが、戦闘はプロだぞ?」


 彼の発言と同時に放電を放ちます。

 今度はちゃんと指向性を持たせ、目標地点まで一直線に飛んでいきました。

 以前、バーヴさんを巻き込んだのは反省しているのです。


「ぎゃん!」


 こっそり呼吸を整え詠唱をしようとしてた男が、蹴られた犬のような悲鳴を上げて気絶しました。

 彼よりも遅く起動し、彼よりも早く発動させた。その一点から見ても、わたしの技量は把握できたでしょう。


「術者の技量は見ての通り。さて、どうする? 言っておくが時間はあまり無いぞ」

「わかった、街を出る! 出るから見逃してくれ!」

「おっと、立ち去る前に登録証を置いていってもらおうか? 証拠は必要だし、見逃した上に悪事を働かれた、とあってはこちらも困るしな」

「くそ、わかったよ」


 登録証をこちらに投げて、そそくさと逃げ出す男たち。

 その背中に声を掛けてあげます。


「ちゃんと真面目に生きるんですよー?」

「わかってらぁ!」


 さて、一悶着ありましたが、問題は解決。今度こそ戻ることにしましょう。

 ギルドへの報告もありますしね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る