50話:3章 変形魔術検証
来客を追い払った後に、ハスタールと魔法陣の検証を行いました。
なんだか久し振りですね、この配置は。弟子時代に戻った気分です。相手がチビッ子になってますが。
「やはり、この魔法陣だと人体の保護が問題になるな。元々が変形させる為なのだから、付けられなかったのだろう。それに効果時間はおよそ一日か」
真面目モードで魔法陣を調べる、ショタタール。
子供の頃はこんな顔だったのですねぇ。これはこれでカッコイイのでしょうか?
「どうした、ユーリ? 見るのは俺じゃなく魔法陣だろう」
「あ、ごめんなさい。見慣れない顔だったものですから、つい」
「まあ、確かに背の低さとか違和感があるけどな。お前の身長には釣り合ってるから、丁度いい」
彼はそう言ってわたしに手を伸ばし、肩を抱こうとして――
「――ひぁ!?」
わたしはその手を拒絶してしまいました。
え、どういうことです?
「あ、あれ?」
「まさか……ユーリ?」
ええ? まさか拒絶反応が彼に対して出てるですか?
こんな姿になったけど、これはハスタールなんですよ、あれ?
「ハスタール、ごめんなさい。大丈夫ですから」
こんなことはあってはいけません。恐る恐るですが彼の体にそっと頭を預けます。
すると、彼の体温を感じた瞬間わたしの身体はガタガタと震えだします。
頭がガンガンと痛みだし、胃の腑が捻じ切れる様な痛みと嘔吐感を覚え――
「もういい、もういいから離れなさい」
ハスタールに突き放されました。
蒼白な表情で身体を強張らせるわたしを、泣きそうな表情で見つめる彼。
「ごめんなさい。わたし、ちゃんと受け入れますから……大丈夫ですから……」
「いや、無理しなくていい。俺がこんな身体になったんだ。拒絶反応が出てもおかしくないから」
「でも!」
「妻に無理をさせるのが夫の役目じゃないぞ。それに、解決策はここにあるだろう? だから、心配しなくてもいいから」
彼は机の上の羊皮紙を指差して、捲くし立てるように告げます。大事なことなのに、事も無げに言ってのけるのです。
バハムートはこの状況を予見して、この魔法を授けたのでしょうか? でも。
「この魔法は、使ったら、死んじゃいます」
「俺は不死になったのだろう?」
そう言えば、まだ識別していなかったですね。これで見れば結果はすぐわかったでしょうに。少し見てみましょう。
――風属性魔術・魔道具作成・不老・不死。
なんと四つもギフトがあります。彼もチートの仲間入りですね。元からチート気味ではありましたが。
「確かに不老と不死あります。でも、痛覚まで無くなったわけじゃないんです。あなたはわたしとは違う。痛みで気が狂う可能性だって」
わたしが死ぬほどの苦痛を受けても平気でいられるのは、状況適応のギフトがあるから。それが無ければ、とっくに気が狂っていたでしょう。
彼の場合は狂っても死ねない。たとえ不老不死でも、彼はそういう状況に陥る可能性を秘めているんです。
「そういえば苦痛耐性系は持っていないな。この魔法陣、改変できないか?」
「滅茶苦茶複雑です。改変はすぐには難しいかもしれませんね。でも、追記ならなんとか?」
「追記、といってもこの密度じゃ、書き込むスペースが無いぞ」
わたしの拒絶反応を抑えるのは一朝一夕では無理でしょう。ならば彼と触れ合うには『元の姿』に戻ってもらえばいいんです。
ですが、この魔法陣は肉体を無理矢理変形させるものです。通常なら文字通り死ぬほどの苦痛を味わうのですが、彼は不死です。
問題は発狂するほどの苦痛に彼が耐えられるかどうかなので、そこに『痛覚遮断』の術式を組み込めれば、なんとかなるかもしれません。
「魔法陣を二つ展開して、接続するのはどうです?」
「そんな器用な真似ができるのはお前だけだ」
「それほど困難というわけでは、うーん?」
彼に展開できる魔法陣は一つだけ。というか、二つ展開できるわたしの方が異常だそうですが。
とにかく、痛覚遮断を仕込むのは必須項目です。問題は変形にその余裕か存在しない。
個別起動はできなくて……いや、別に一人で起動することは無いです?
元々痛覚遮断は麻酔として開発された術式で、他人に掛けることが可能なわけで。だったら、わたしが掛ければいいじゃない。
「ハスタール、痛覚遮断はわたしが掛ければいいのでは?」
「おお!」
彼もわたしも、一人で何でもこなそうとし過ぎる傾向が有るようです。
……ボッチ期間が長かったから。
「ならば、まず実験だな。いきなりは怖いから指先だけ変形してみるか」
微妙にチキンな発言をする彼。いや、慎重なのは良いことです。
結果として、痛みを発せず『爪の無い指先』を作ることには成功しました。問題があるとすれば一つ。
「ハスタール、あなた自分の外見って知ってます?」
「鏡はよく見るぞ。髪とか髭とかのセットの時に。そうだ、髭を生やしてみよう」
「髭はやめてください。あれ、チクチクして痛いんです」
「髭は嫌いか?」
「痛いのはイヤです」
「キスすらできないのは困るしな。以後気をつけるとしよう」
髭でしょぼんとするのはやめてください。そんなの無くても威厳はあったんですよ? 今はかけらも無いですけど。
というか、気に入ってたんですね、あの付け髭。
「不死が有って痛覚無しで変形が使えるとなると、色々夢が広がるな。ドラゴンに変身とかもできるんだろう?」
「理論上はできるでしょうね。バハムートが人に変形しているところを見ると、体積とかも無視できそうですし」
「そういえばユーリは変身できないのか?」
「黄金比が変化を戻しちゃうでしょうね。変形しても数秒じゃないでしょうか?」
「巨乳にはなれんか」
「おっきい方が好きなんですか?」
残念そうに、しみじみと呟かないでください。ぺったんは自分でも悩みの種なんです。
わたしも女になった時に『オッパイやわらけー!』とか言ってみたかったですよ。それがロマンってものじゃないですか。
「いや、今は『ユーリの』が好きだ」
「くっ、いつもあなたは不意打ち気味に……」
彼の不意打ちに頭が瞬間沸騰してしまいました。ズルイです。
「まあいいじゃないか。それじゃ、そろそろ本格的に戻るぞ? 痛覚遮断を掛けてくれ」
「わかりました。注意してくださいね?」
「術が効きはじめると注意もクソもないけどな」
なんとも頼りない返事を聞きながら、わたしは痛覚遮断を起動させたました。
そして、彼の変形も起動していきます。
身体を元に戻すことに成功したわたしたちは、その夜ハスタールの私室にいました。
「ハスタール、身体の方は本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ、問題ない。むしろ中身が若い身体な分、いつもより調子がいいくらいだぞ。それにまあ、他にもいろいろと。今夜は覚悟するように」
「自重してください」
まあ、そんなドS発言をしても、本当にわたしの嫌がることは、基本的にしないんですよね。
いつものようにベッドの上で柔軟体操を行い、寝る前に身体を
「しかし、なぜお前は柔軟しているんだ?」
「ハスタールが言ったんじゃないですか、二年前に! 身体が硬いから柔軟しておくようにって」
「よく律儀に守っているものだ。俺の修行時代なんてサボってばかりだったモノだが」
「それに解しておかないとツライんですよ。いろいろ」
「あー、そうだな。身体小さいものな」
前屈、捻転、上体逸らし……あっ、コラ! 胸を触りに来ない!
「なに撫でてんですか!」
「いや、いつも平たいが、逸らすと本当にアバラが浮き出るな、と」
「胸の筋肉も薄いんですよ。やはり大きい方がいいです?」
「男に二言は無い。俺は『ユーリ』がいいんだ」
嬉しいような、残念なような、そんな男前発言はいらなかったですよ。
少しふくれっ面なわたしの柔軟を、彼はニヤニヤしながら眺めています。
何が面白いのですかね?
「しかしあれだな。全裸で柔軟体操って意外とエロティックだな?」
「だまらっしゃい。あなた、脱いでおかないとドロドロにするじゃないですか! わたしの寝巻きはすでに全滅ですよ」
「これも日頃の教育、ということで」
「そんな教育は廃れてしまえっ」
暴走モードに入った彼は、遠慮というものが有りません。
ドロドロになって染みになったり破れたりしてしまって、いつもの寝巻きは全て廃棄処分にされてしまったのです。
「よし、それじゃあ始めるとするか」
「なにをですか!」
開脚から前屈している姿に興奮したのでしょうか?
おもむろに彼は服を脱ぎだし……脱ぎ、え、あれぇ!?
「は、ハスタール……その……それは、一体……なんです?」
「うむ、せっかく変形できるっていうのだからな。少々アレンジしてみた」
「何でソレ、二本? しかも、いつもより倍ほど大きい気がするんですが!」
「男のロマンだな」
わたしも元男だからわかりますけど、ソレは
何でそんな変な場所で応用力働かせるのですかっ!
流石のわたしもドン引きです。あ、イヤ、寄るな、来ないでっ!?
「い、いや……それは……」
「怯えた表情も魅力的だぞ?」
低く渋い、いつもの魅力的なハスタールの声。わたしを安心させてきたその声は、今わたしを絶望のどん底に突き落としてます。
今日のそれには獲物を狙う、肉食獣的な『なにか』が潜んで……いや、今まさにわたしを食おうとしてるわけですが!
「ハスタール、ソレは流石にわたしもイヤです。やめてください!」
「なに、機能の確認も兼ねないといけないしな。魔術実験だよ、実験」
「そんな理屈は通りません!?」
前言撤回です。彼はわたしの嫌がることでも平気でします。主に性的に。
「ごめんなさい、許して。本当にダメで! っていうか大きさ的に無理!」
「状況適応が馴らしてくれるから、安心しろ」
ハァハァと息荒く迫る彼。ちょっとイメージが狂うんでやめてください。マジで。
「アッーーーーーー!?」
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